特攻隊に捧ぐ
著者:坂口安吾
とっこうたいにささぐ - さかぐち あんご
文字数:3,129 底本発行年:2000
数百万の血をささげたこの戦争に、我々の心を真に高めてくれるような本当の美談が少いということは、なんとしても切ないことだ。
それは一に軍部の指導方針が、その根本に
けれども敗戦のあげくが、軍の積悪があばかれるのは当然として、戦争にからまる何事をも悪い方へ悪い方へと解釈するのは決して健全なことではない。
たとえば戦争中は勇躍護国の花と散った特攻隊員が、敗戦後は
私はだいたい、戦法としても特攻隊というものが好きであった。
人は特攻隊を残酷だというが、残酷なのは戦争自体で、戦争となった以上はあらゆる
戦法としても、日本としては上乗のものだった。
ケタの違う工業力でまともに戦える筈はないので、追いつめられて窮余の策でやるような無計画なことをせず、戦争の始めから、航空工業を特攻専門にきりかえ、重爆などは作らぬやり方で片道飛行機専門に組織を立てて立案すれば、工業力の劣勢を相当おぎなうことが出来たと思う。
人の子を死へ
私は文学者であり、生れついての懐疑家であり、人間を人性を死に至るまで疑いつづける者であるが、然し、特攻隊員の心情だけは疑らぬ方がいいと思っている。
なぜなら、疑ったところで、タカが知れており、分りきっているからだ。
要するに、死にたくない本能との格闘、それだけのことだ。
疑るな。
そッとしておけ。
そして、
彼らは自ら爆弾となって敵艦にぶつかった。
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特攻隊に捧ぐ - 情報
青空情報
底本:「堕落論」新潮文庫、新潮社
2000(平成12)年6月1日初版発行
2004(平成16)年4月20日5刷
初出:「坂口安吾全集 16」筑摩書房
2000(平成12)年4月25日初版第1刷発行
※「ホープ 第二巻第二号」実業之日本社、1947(昭和22)年2月1日発行に掲載予定だったが、GHQの検閲により削除された。テキストは、初出、底本とも「占領軍検閲雑誌」雄松堂(マイクロフィルム)による。
入力:うてな
校正:富田倫生
2006年4月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:特攻隊に捧ぐ