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アイヌ神謡集

著者:知里幸惠編訳

アイヌしんようしゅう - さくしゃふしょう

文字数:72,432 底本発行年:1923
著者リスト:
著者作者不詳
翻訳者知里 幸恵
編者知里 幸恵
底本: アイヌ神謡集
親本: アイヌ神謡集
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序章-章なし

その昔この広い北海道は,私たちの先祖の自由の天地でありました.天真爛漫な稚児の様に,美しい大自然に抱擁されてのんびりと楽しく生活していた彼等は,真に自然の寵児,なんという幸福な人だちであったでしょう.

冬の陸には林野をおおう深雪を蹴って,天地を凍らす寒気を物ともせず山又山をふみ越えて熊を狩り,夏の海には涼風泳ぐみどりの波,白い鴎の歌を友に木の葉の様な小舟を浮べてひねもす魚を漁り,花咲く春は軟らかな陽の光を浴びて,永久にさえずる小鳥と共に歌い暮してふきとりよもぎ摘み,紅葉の秋は野分に穂揃うすすきをわけて,宵まで鮭とるかがりも消え,谷間に友呼ぶ鹿の音を外に,まどかな月に夢を結ぶ.嗚呼なんという楽しい生活でしょう.平和の境,それも今は昔,夢は破れて幾十年,この地は急速な変転をなし,山野は村に,村は町にと次第々々に開けてゆく.

太古ながらの自然の姿も何時の間にか影薄れて,野辺に山辺に嬉々として暮していた多くの民の行方も亦いずこ.僅かに残る私たち同族は,進みゆく世のさまにただ驚きの眼をみはるばかり.しかもその眼からは一挙一動宗教的感念に支配されていた昔の人の美しい魂の輝きは失われて,不安に充ち不平に燃え,鈍りくらんで行手も見わかず,よその御慈悲にすがらねばならぬ,あさましい姿,おお亡びゆくもの……それは今の私たちの名,なんという悲しい名前を私たちは持っているのでしょう.

その昔,幸福な私たちの先祖は,自分のこの郷土が末にこうした惨めなありさまに変ろうなどとは,露ほども想像し得なかったのでありましょう.

時は絶えず流れる,世は限りなく進展してゆく.激しい競争場裡に敗残の醜をさらしている今の私たちの中からも,いつかは,二人三人でも強いものが出て来たら,進みゆく世と歩をならべる日も,やがては来ましょう.それはほんとうに私たちの切なる望み,明暮あけくれ祈っている事で御座います.

けれど……愛する私たちの先祖が起伏す日頃互いに意を通ずる為に用いた多くの言語,言い古し,残し伝えた多くの美しい言葉,それらのものもみんな果敢なく,亡びゆく弱きものと共に消失せてしまうのでしょうか.おおそれはあまりにいたましい名残惜しい事で御座います.

アイヌに生れアイヌ語の中に生いたった私は,雨の宵,雪の夜,暇ある毎に打集って私たちの先祖が語り興じたいろいろな物語の中極く小さな話の一つ二つを拙ない筆に書連ねました.

私たちを知って下さる多くの方に読んでいただく事が出来ますならば,私は,私たちの同族祖先と共にほんとうに無限の喜び,無上の幸福に存じます.

大正十一年三月一日

知里幸惠

[#改ページ]

AEKIRUSHI

Kamuichikap kamui yaieyukar, “Shirokanipe ranran pishkan”

Chironnup yaieyukar, “Towa towa to”

Chironnup yaieyukar, “Haikunterke Haikoshitemturi”

Isepo yaieyukar, “Sampaya terke”

Nitatorunpe yaieyukar, “Harit kunna”

Pon Horkeukamui yaieyukar, “Hotenao”

Kamuichikap Kamui yaieyukar, “Konkuwa”

Repun Kamui yaieyukar, “Atuika tomatomaki kuntuteashi hm hm!”

Terkepi yaieyukar, “Tororo hanrok hanrok!”

Pon Okikirmui yaieyukar, “Kutnisa kutunkutun”

Pon Okikirmui yaieyukar, “Tanota hurehure”

Esaman yaieyukar, “Kappa reureu kappa”

Pipa yaieyukar, “Tonupeka ranran”

[#改ページ]

目次

序(知里幸惠)

梟の神の自ら歌った謡「銀のしずく降る降るまわりに」

狐が自ら歌った謡「トワトワト」

狐が自ら歌った謡「ハイクンテレケ ハイコシテムトリ」

兎が自ら歌った謡「サンパヤ テレケ」

谷地の魔神が自ら歌った謡「ハリツ クンナ」

小狼の神が自ら歌った謡「ホテナオ」

梟の神が自ら歌った謡「コンクワ」

海の神が自ら歌った謡「アトイカ トマトマキ クントテアシ フム フム!」

蛙が自らを歌った謡「トーロロ ハンロク ハンロク!」

小オキキリムイが自ら歌った謡「クツニサ クトンクトン」

序章-章なし
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アイヌ神謡集 - 情報

アイヌ神謡集

アイヌしんようしゅう

文字数 72,432文字

著者リスト:
著者作者不詳
翻訳者知里 幸恵
編者知里 幸恵

底本 アイヌ神謡集

親本 アイヌ神謡集

青空情報


底本:「アイヌ神謡集」岩波文庫、岩波書店
   1978(昭和53)年8月16日第1刷発行
   2004(平成16)年2月5日第35刷発行
底本の親本:「アイヌ神謡集」郷土研究社
   1923(大正12)年8月10日発行
※底本は横組みで、見開き左のページにローマ字文が、右のページに漢字仮名混じり文が、対訳の形で配置されています。このファイルでは謡ごとに、ローマ字文、脚注、漢字仮名混じり文の順序で編成しました。
※謡の改行位置は原則として底本に合せました。なお、底本で字下げを行っている行は前の行に続け、左右のページの行合せのために挿入された空白行は詰めましたが、謡の末尾など一部は底本通り改行、字下げしています。
※ローマ字文で語間隔が広めの箇所は半角空白2文字で表しました。
※文中の脚注番号を(数字)で表しました。
※〔〕は底本の編集時に補われた箇所を表します。
入力:土屋隆
校正:鈴木厚司
2008年1月25日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:アイヌ神謡集

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