蛙のゴム靴
著者:宮沢賢治
かえるのゴムぐつ - みやざわ けんじ
文字数:7,274 底本発行年:1979
松の木や
それから、林の中の楢の木の下に、ブン蛙のうちがありました。
林の向ふのすゝきのかげには、ベン蛙のうちがありました。
三
ある夏の暮れ方、カン蛙ブン蛙ベン蛙の三疋は、カン蛙の家の前のつめくさの広場に座って、雲見といふことをやって居りました。
一体蛙どもは、みんな、夏の雲の峯を見ることが大すきです。
じっさいあのまっしろなプクプクした、
「どうも実に立派だね。 だんだんペネタ形になるね。」
「うん。 うすい金色だね。 永遠の生命を思はせるね。」
「実に僕たちの理想だね。」
雲のみねはだんだんペネタ形になって参りました。
ペネタ形といふのは、蛙どもでは大へん
「この
「うん。 よくみんなはいてるやうだね。」
「僕たちもほしいもんだな。」
「全くほしいよ。
あいつをはいてなら
「ほしいもんだなあ。」
「手に入れる工夫はないだらうか。」
「ないわけでもないだらう。
たゞ僕たちのはヘロンのとは大きさも型も大分ちがふから
「うん。 それはさうさ。」
さて雲のみねは全くくづれ、あたりは
「さよならね。」
と