死者の書
著者:折口信夫
ししゃのしょ - おりくち しのぶ
文字数:62,321 底本発行年:1989
一
した した した。
耳に伝うように来るのは、水の垂れる音か。
ただ凍りつくような暗闇の中で、おのずと
そうして、なお深い闇。
ぽっちりと目をあいて見廻す瞳に、まず
時がたった――。
眠りの深さが、はじめて頭に浮んで来る。
長い眠りであった。
けれども亦、浅い夢ばかりを見続けて居た気がする。
うつらうつら思っていた考えが、現実に
ああ
耳面刀自。 おれはまだお前を……思うている。 おれはきのう、ここに来たのではない。 それも、おとといや、其さきの日に、ここに眠りこけたのでは、決してないのだ。 おれは、もっともっと長く寝て居た。 でも、おれはまだ、お前を思い続けて居たぞ。 耳面刀自。 ここに来る前から……ここに寝ても、……其から覚めた今まで、一続きに、一つ事を考えつめて居るのだ。
古い――祖先以来そうしたように、此世に在る間そう暮して居た――習しからである。
彼の人は、のくっと起き直ろうとした。
だが、筋々が
耳面刀自。
一
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
死者の書 - 情報
青空情報
底本:「昭和文学全集 第4巻」小学館
1989(平成元)年4月1日初版第1刷発行
底本の親本:「折口信夫全集 第廿四巻」中央公論社
1967(昭和42)年10月25日発行
初出:「日本評論 第十四巻第一号〜三号」
1939(昭和14)年1月〜3月
初収単行本:「死者の書」青磁社
1943(昭和18)年9月
※誤植と組み体裁の誤りが疑われる箇所は、底本の親本を参照して修正しました。
入力:kompass
校正:米田進
2003年12月27日作成
2012年5月29日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:死者の書