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ベースボール

著者:正岡子規

ベースボール - まさおか しき

文字数:5,239 底本発行年:1988
著者リスト:
著者正岡 子規
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序章-章なし

ベースボール に至りてはこれを行う者極めて少くこれを知る人の区域もはなはせまかりしが近時第一高等学校と在横浜米人との間に仕合マッチありしより以来ベースボールという語ははしなく世人の耳に入りたり。 されどもベースボールの何たるやはほとんどこれを知る人なかるべし。 ベースボールはもと亜米利加アメリカ合衆国の国技とも称すべきものにしてその遊技の国民一般に賞翫しょうがんせらるるはあたかも我邦わがくに相撲すもう西班牙スペイン闘牛とうぎゅうなどにも類せりとか聞きぬ。 (米人のわれに負けたるをくやしがりて幾度いくども仕合をいどむはほとんど国辱こくじょくとも思えばなるべし)この技の我邦に伝わりし来歴はつまびらかにこれを知らねどもあるいはいう元新橋鉄道局技師(平岡※(「(冫+臣+犯のつくり)/れんが」、第3水準1-87-58)ひらおかひろしという人か)米国より帰りてこれを新橋鉄道局の職員間に伝えたるをはじめとすとかや。 (明治十四、五年のころにもやあらん)それよりして元東京大学(予備門)へ伝わりしと聞けどいかがや。 また同時に工部大学校、駒場こまば農学校へも伝わりたりと覚ゆ。 東京大学予備門は後の第一高等中学校にして今の第一高等学校なり。 明治十八、九年来の記憶きおくれば予備門または高等中学は時々工部大学、駒場農学と仕合いたることあり。 また新橋組と工部と仕合いたることもありしか。 その後青山英和学校も仕合マッチ出掛でかけたることありしかど年代は忘れたり。 されば高等学校がベースボールにおける経歴は今日に至るまで十四、五年を費せりといえども(もっとも生徒は常に交代しつつあるなり)ややその完備せるは二十三、四年以後なりとおぼし。 これまでは真の遊び半分という有様なりしがこの時よりやや真面目まじめの技術となり技術の上に進歩と整頓せいとんとを現せり。 少くとも形式の上において整頓し初めたり。 すなわち攫者キャッチャーが面と小手こて撃剣げきけんに用うる面と小手のごとき者)を着けて直球ジレクトボールつか投者ピッチャー正投ピッチを学びて今まで九球なりし者を四球(あるいは六球なりしか)に改めたるがごときこれなり。 次にその遊技法につきて多少説明する所あるべし。 (七月十九日)

ベースボールに要するもの はおよそ千坪ばかりの平坦なる地面芝生しばふならばなおし)皮にて包みたる小球ボール(直径二寸ばかりにして中は護謨ゴム、糸のたぐいにて充実じゅうじつしたるもの)投者ピッチャー投げたる球を打つべき木のバット(長さ四尺ばかりにして先の方やや太く手にて持つところやや細きもの)一尺四方ばかりの荒布にて坐蒲団のごとく拵えたるベース三個本基ホームベースおよび投者ピッチャー位置に置くべき鉄板様の物一個ずつ攫者キャッチャーの後方に張りて球を遮るべき網(高さ一間半、はば二、三間位)競技者十八人(九人ずつ敵味方に分るるもの)審判者アムパイア一人幹事一人(勝負を記すもの)等なり。

ベースボールの競技場 図によりて説明すべし。

ベースボールの競技場の図

直線いほ及びいへ(実際には線なし、あるいは白灰にて引く事あり)は無限に延長せられたるものとし直角ほいへの内は無限大の競技場たるべし。 ただし実際は本基ホームベースにて打者ストライカーの打ちたる球の達する処すなわち限界となる。 いろはには正方形にして十五間四方なり。 勝負は小勝負九度を重ねて完結する者にして小勝負一度とはこう組(九人の味方)が防禦ぼうぎょの地に立つ事とおつ組(すなわち甲組の敵)が防禦の地に立つ事との二度の半勝負に分るるなり。 防禦の地に立つ時は九人おのおのその専務に従い一、二、三等の位置を取る。 但しこの位置は勝負中多少動揺どうようすることあり。 甲組競技場に立つ時は乙組は球を打つ者ら一、二人(四人をえず)のほかはことごとく後方にひかえおるなり。

(い) 本基ホームベース

(ろ) 第一ベース(基を置く)

(は) 第二基(基を置く)

(に) 第三基(基を置く)

(一) 攫者キャッチャーの位置(攫者の後方に網を張る)

(二) 投者ピッチャーの位置

(三) 短遮ショルトストップの位置

(四) 第一基人ベースマンの位置

(五) 第二基人の位置

(六) 第三基人の位置

(七) 場右ライトフィルダーの位置

(八) 場中センターフィルダーの位置

(九) 場左レフトフィルダーの位置

序章-章なし
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ベースボール - 情報

ベースボール

ベースボール

文字数 5,239文字

著者リスト:
著者正岡 子規

底本 ことばの探偵〈ちくま文学の森14〉

青空情報


底本:「ことばの探偵〈ちくま文学の森14〉」筑摩書房
   1988(昭和63)年12月20日第1刷
初出:「日本」日本新聞社
   1896(明治29)年7月19日号〜27日号
※図の製作にあたっては、「子規全集 第十一卷 随筆一」講談社(1975(昭和50)年4月18日第1刷)を適宜参照しました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(大石尺)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2004年11月4日作成
2013年9月22日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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