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一本のわら

著者:楠山正雄

いっぽんのわら - くすやま まさお

文字数:5,509 底本発行年:1983
著者リスト:
著者楠山 正雄
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序章-章なし

むかし、大和国やまとのくに貧乏びんぼう若者わかものがありました。 一人ひとりぼっちで、ふたおやつま子供こどももない上に、使つかってくれる主人しゅじんもまだありませんでした。 若者わかものはだんだん心細こころぼそくなったものですから、これは観音かんのんさまにおねがいをするほかはないとおもって、長谷寺はせでらという大きなおてらのおどうにおこもりをしました。

「こうしておりましては、このままあなたのおまえでかつえににんでしまうかもれません。 あなたのおちからでどうにかなるものでしたら、どうぞゆめででもおおしくださいまし。 そのゆめないうちは、ぬまでここにこうしておこもりをしておりますから。」

こういって、その男は観音かんのんさまのまえにつっしました。 それなり幾日いくにちたってもうごこうとはしませんでした。

するとおてらぼうさんがそれをて、

「あの若者わかもの毎日まいにちつっしたきり、ものべずにいる様子ようすだが、あのままいてかつえにになれでもしたら、おてらけがれになる。」

とぶつぶつ口小言くちこごとをいいながら、そばへってて、

「おまえはだれに使つかわれているものだ。 いったいどこでものべるのか。」

きました。 若者わかものはとろんとしたすこしあけて、

「どうしまして、わたしのようなうんわるもの使つかってくれる人もありません。 ごらんのとおり、もう幾日いくにちなにべません。 せめて観音かんのんさまにおすがりもうして、きるともぬとも、このからだをどうにでもしていただこうとおもうのです。」

といいました。 ぼうさんたちはそこで相談そうだんして、

こまったものだな。 うっちゃっておくわけにもいかない。 かりにも観音かんのんさまにおねがもうしているというのだから、せめてものだけはやることにしよう。」

といって、みんなでわるわる、ものって行ってやりました。 若者わかものはそれをもらってべながら、とうとう三七二十一にちあいだおなところにつっしたまま、一生懸命いっしょうけんめいいのりをしていました。

いよいよ二十一にちのおこもりをすませたがたに、若者わかものはうとうとしながら、ゆめました。 それは観音かんのんさまのまつられているおとばりの中から、一人ひとりのおじいさんがてきて、

「おまえがこのうんわるいのは、みんなまえわるいことをしたむくいなのだ。 それをおもわないで、観音かんのんさまにぐちをいうのは間違まちがっている。 けれども観音かんのんさまはかわいそうにおぼしめして、すこしのことならしてやろうとおっしゃるのだ。 それでとにかくはやくここをていくがいい。 ここをたら、いちばんさきにさわったものをひろって、それはどんなにつまらないものでもだいじにっているのだ。 そうするといまうんひらけてくる。 さあそれでははやていくがいい。」

てるようにいわれたとおもうと、ふとましました。

若者わかものはのそのそがって、いつものとおりぼうさんのところって、ものをもらってべると、すぐにおてらていきました。

するとおてら大門おおもんをまたぐひょうしに、若者わかものはひょいとけつまずいて、まえへのめりました。 そしてころんだはずみに、ると、みちの上にちていた一ぽんのわらを、おもわず手につかんでいました。

序章-章なし
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一本のわら - 情報

一本のわら

いっぽんのわら

文字数 5,509文字

著者リスト:
著者楠山 正雄

底本 日本の古典童話

青空情報


底本:「日本の古典童話」講談社学術文庫、講談社
   1983(昭和58)年6月10日第1刷発行
入力:鈴木厚司
校正:林 幸雄
2006年7月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:一本のわら

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