五重塔
著者:幸田露伴
ごじゅうのとう - こうだ ろはん
文字数:54,055 底本発行年:1963
其一
と、見る眼も覚むべき雨後の山の色をとゞめて
ひ一トしほ床しく、鼻筋つんと通り眼尻キリヽと上り、洗ひ髪をぐる/\と
今しも台所にては
御用
其二
火は別にとらぬから
なれど、
姉御、では御厄介になつて直に仕事に突走ります、と鷲掴みにした手拭で額拭き/\勝手の方に立つたかとおもへば、
喧しく、一人殺しぢや二人殺しぢや、
其三
世に栄え富める人
は初霜月の

しい諢名さへ負せられて
其四
当時に
其宜しきに適ひ、結構少しも申し分なし。
そも/\微
たる旧基を振ひて
然るに
と読み続けられけるが、いよ/\塔の建つに定つて例の源太に、積り書出せと圓道が
其五
紺とはいへど汗に褪め風に
十兵衞これに力を得て、
で無うては、申しても役に立ちませぬ事、何卒たゞ御取次を願ひまする、と此方の心が
復庫裡に廻り復玄関に行き、復玄関に行き庫裡に廻り、終には遠慮を忘れて本堂にまで響く大声をあげ、頼む/\御頼申すと叫べば、
しきを嫌ひたまふ上人様に知れなば、我等が此奴のために叱らるべしとの下知、心得ましたと先刻より
に罵り騒ぐところへ、後園の花二枝三枝
其六
何事に罵り騒ぐぞ、と上人が下したまふ鶴の一声の御言葉に群雀の

と赤土のしつとりとしたるところ、飛石の
上人庭下駄脱ぎすてゝ上にあがり、さあ
と一礼する態は、礼儀に
悪口受くる
自分の不運を泣きますは、御上人様、時
は口惜くて
其七
木彫の羅漢のやうに黙
と坐りて、菩提樹の実の
其八
明日辰の刻頃までに自身当寺へ来るべし、予て其方工事仰せつけられたきむね願ひたる五重塔の儀につき、上人
と
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
五重塔 - 情報
青空情報
底本:「日本現代文學全集 6 幸田露伴集」講談社
1963(昭和38)年1月19日初版第1刷発行
1980(昭和55)年5月26日増補改訂版第1刷
初出:「国会新聞」
1891(明治24)年11月〜1892(明治25)年4月
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記を新字、旧仮名にあらためました。
入力:kompass
校正:浅原庸子
2004年11月3日作成
2009年7月29日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:五重塔