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眠る森のお姫さま

原題:LA BELLE AU BOIS DORMANT

著者:ペロー Perrault

ねむるもりのおひめさま

文字数:8,255 底本発行年:1950
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序章-章なし

むかしむかし、王様とお妃がありました。 おふたりは、こどものないことを、なにより悲しがっておいでになりました。 それは、どんなに悲しがっていたでしょうか、とても口ではいいつくせないほどでした。 そのために、世界じゅうの海という海を渡って、神様をがんをかけるやら、お寺に巡礼じゅんれいをするやらで、いろいろに信心しんじんをささげてみましたが、みんな、それはむだでした。

でもそのうち、とうとう信心のまことがとどいて、お妃に、ひいさまの赤ちゃんが生まれました。 それでさっそく、さかんな洗礼せんれいの式をあげることになって、おひめさまの名づけ親になる教母きょうぼには、国じゅうの妖女ようじょが、のこらず呼び出されました。 その数は、みんなで七人でした。 そのじぶんの妖女なかまのならわしにしたがい、七人の妖女は、めいめい、ひとつずつ、りっぱなおくりものを持って来るはずでした。 ですから、生まれたときから、お姫さまには、もうこの世でのぞめるかぎりのことで、なにひとつ身にそなわらないものはなかったのでございます。

さて洗礼式がすんだあと、呼ばれた七人のなかま一同が、王様のお城にかえりますと、そこには、妖女たちのために、りっぱなごちそうのしたくが、できていました。 ひとりひとりの食卓しょくたくの上には、おさらさかずき食器しょっきがひとそろいならべてあって、それは、大きな金の箱にはいっている、さじだの、ナイフだの、フォークだので、こののこらずが、ダイヤモンドとルビーをちりばめた、純金製じゅんきんせいのものでした。

ところで、みんなならんで食卓しょくたくについたとき、ふと見ると、いつどこからやって来たか、たいへん年をとった妖女がひとり、のそのそと広間にはいって来ました。 けれどこの妖女は、この席に呼ばれてはいなかったのです。

というわけは、このおばあさんの妖女は、今から五十年もまえ、あるとうの中にこもったなり、すがたをかくしてしまって、もういまでは、死んでしまっているか、魔法まほうにでもかけられて、なにかかわったものにされてしまった、とおもわれていたからです。

王様はあわてて、この妖女の前にも、ひとそろい食器を並べさせました。 でも、それはもう、大きな金の箱に入れた純金製じゅんきんせいのものではありませんでした。 なにしろお客は七人のはずでしたから、七人まえのしたくしか、できてはいなかったのです。 するとおばあさんの妖女は、じぶんだけが、けいべつされたようにおもって、口の中で、なにかぶつぶつ、口こごとをいっていました。

そのとき、ほかの若い妖女のひとりが、そばにとなりあわせていて、おばあさんのくどくどいうことばを、そっと聞いていました。 それで、このおばあさんが、王女になにかよくないおくりものをしようと、たくらんでいることがわかりましたから、食事がすんで、みんなが食卓しょくたくから立ちあがると、そのまま、その妖女は、とばりのかげにかくれていました。 それは、こうしてかくれていて、そのおばあさんが、なにをたくらもうとも、じぶんがそのあとに出て、すぐ、そののろいのことばを、うち消すようなことをいって、それをおひめさまへのおくりものにしよう、とおもったからです。

そうこうするうちに、いよいよ、妖女たちは、それぞれ、お姫さまにおくりもののことばをのべることになりました。 なかで、いちばん若い妖女は、お姫さまが世界一美しい人になられますように、といいました。 つぎの妖女は、天使のようなおこころがさずかりますように、といいました。 三ばんめの妖女は、王女のたちいふるまいの、やさしく、しとやかにありますように、といいました。 四ばんめの妖女は、たれおよぶもののないダンスの上手じょうずになられますように、といいました。 五ばんめの妖女は、小夜啼鳥さよなきどりのような、やさしい声でおうたいになりますように、といいました。 六ばんめの妖女は、どんな楽器がっきにも、名人めいじんの名をおとりになりますように、といいました。 いよいよおしまいに、おばあさんの妖女の番になりました。 この妖女は、さもいまいましそうに首をふりながら、王女は、その手を糸車のつむにさされて、けがをして死ぬだろうよといいました。

このおそろしいおくりものは、身ぶるいの出るほど、みんなをびっくりさせて、たれもおひめさまのために泣かないものはありませんでした。 そのときです、若い妖女が、とばりのかげから出て来て、とても大きな声で、つぎのようなことばをいいました。

「いいえ、王様、お妃様、だいじょうぶ、あなたがたのだいじなおひいさまは、いのちをおなくしになるようなことはありません。 もっとも、わたくしには、この年よりのいったんかけたのろいを、のこらずときほごすまでの力はございません。 おひいさまは、なるほど手のひらに、つむをおつきたてになるでしょう。 けれどそのために、おかくれになるということはありません。 ただ、ぐっすりと、ねこんでおしまいになって、それは百年のあいだ、目をおさましになることがないでしょう。 そして、ちょうど百年めに、ある国の王子さまが来て、おひいさまの目をおさまし申すことになるでしょう。」

序章-章なし
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眠る森のお姫さま - 情報

眠る森のお姫さま

ねむるもりのおひめさま

文字数 8,255文字

著者リスト:

底本 世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの

青空情報


底本:「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」小峰書店
   1950(昭和25)年5月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本では見出し「一」はページ上部に挿し絵があるため、他の見出しと字下げ分が異なっていましたが、統一しました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:眠る森のお姫さま

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