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猫吉親方 またの名 長ぐつをはいた猫

原題:LE MAITRE CHAT OU LE CHAT BOTTE

著者:ペロー Perrault

ねこきちおやかた

文字数:5,741 底本発行年:1950
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序章-章なし

むかし、あるところに、三人むすこをもった、こなひき男がありました。 もともと、びんぼうでしたから、死んだあとで、こどもたちに分けてやる財産ざいさんといっては、粉ひき臼をまわす風車ふうしゃと、ろばと、それから、ねこ一ぴきだけしかありませんでした。 さていよいよ財産を分けることになりましたが、公証人こうしょうにんや役場の書記しょきを呼ぶではなし、しごくむぞうさに、一ばん上のむすこが、風車ふうしゃをもらい、二ばんめのむすこが、ろばをもらい、すえのむすこが、ねこをもらうことになりました。 すえのむすこは、こんなつまらない財産ざいさんを分けてもらったので、すっかりしょげかえってしまいました。

「にいさんたちは、めいめいにもらった財産をいっしょにして働けば、りっぱにくらしていけるのに、ぼくだけはまあ、この猫をたべてしまって、それからその毛皮で手袋をこしらえると、あとにはもうなんにも、のこりゃしない。 おなかがへって、死んでしまうだけだ。」

すえの子は、ふふくそうにこういいました。 すると、そばでこれを聞いていた猫は、なにを考えたのか、ひどくもったいぶった、しかつめらしいようすをつくりながら、こんなことをいいました。

「だんな、そんなごしんぱいはなさらなくてもようございますよ。 そのかわり、わたしにひとつ袋をこしらえてください。 それから、ぬかるみの中でも、ばらやぶの中でも、かけぬけられるように、長ぐつを一そくこしらえてください。 そうすれば、わたしが、きっとだんなを、しあわせにしてあげますよ。 ねえ、そうなれば、だんなはきっと、わたしを遺産いさんに分けてもらったのを、お喜びなさるにちがいありません。」

主人は猫のいうことを、そう、たいしてあてにもしませんでした。 けれども、この猫がいつもねずみをとるときに、あと足ではりにぶらさがって、小麦粉をかぶって、死んだふりをしてみせたりして、なかなかずるい、はなれわざをするのを知っていましたから、なにかつごうして、さしあたりのなんぎを、すくってくれるくふうがあるのかもしれない、とおもって、とにかく、猫のいうままに、袋と長ぐつをこしらえてやりました。

猫吉親方おやかたは、さっそく、その長ぐつをはいて、袋を首にかけました。 そして、ふたつの前足で、袋のひもをおさえて、なかなか気取ったかっこうで、うさぎをたくさん、はなしいにしてあるところへ行きました。 そこで、猫は、袋の中にふすまちしゃを入れて、遠くのほうへほうりだしておきました。 そこから、袋のひもを長くのばして、そのはしをつかんだままじぶんはこちらに長ながとねころんで、死んだふりをしていました。 こうして、まだ世の中のうそを知らない若い兎たちが、なんの気なしに、袋の中のものをたべに、もぐりこんでくるのを待っていました。 あんのじょう、もうさっそく、むこう見ずの若い、ばか兎が一ぴき、その袋の中へとびこみました。 猫吉親方おやかたは、ここぞと、すかさずひもをしめて、その兎を、なさけようしゃもなくころしてしまいました。 そうして、それを、えいやっとかついで、鼻たかだかと、王様の御殿へ出かけて、お目どおりをねがいました。

猫吉は、王様のごぜんへ出ると、うやうやしくおじぎをして、

「王様、わたくしは、主人カラバ侯爵こうしゃくからのいいつけで、きょう狩場かりばで取りましたえものの兎を一ぴき、王様へけん上にあがりました。」

カラバ侯爵こうしゃくというのは、猫吉がいいかげんに、じぶんの主人につけたなまえですが、王様はそんなことはごぞんじないものですから、

「それは、それは、ありがとう。 ご主人に、どうぞよろしく御礼をいっておくれ。」 と、おっしゃいました。

猫吉は、ばんじうまくいったわいと、心の中ではおもいながら、

「はいはい、かしこまりました。」 と、申しあげて、ぴょこ、ぴょこ、おじぎをして、かえって来ました。

そののちまた、猫吉は、こんどは、麦畠の中にかくれていて、れいの袋をあけて待っていますと、やまどりが二羽かかりました。 それを二羽ともそっくりつかまえて、兎とおなじように、王様の所へもって行きました。

それからふた月三月のあいだというもの、しじゅうカラバ侯爵こうしゃくのお使だと名のっては、いろいろと狩場かりばのえものを、王様へけんじょうしました。 そしてそのたんびに、猫吉はお金をいただいたり、お酒を飲まされたり、たっぷりおもてなしをうけるうちに、だんだん王様の御殿のようすが分かってきました。

序章-章なし
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猫吉親方 - 情報

猫吉親方 またの名 長ぐつをはいた猫

ねこきちおやかた またのな ながぐつをはいたねこ

文字数 5,741文字

著者リスト:

底本 世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの

青空情報


底本:「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」小峰書店
   1950(昭和25)年5月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:猫吉親方

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