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青ひげ

原題:LA BARBE BLEUE

著者:ペロー Perrault

あおひげ

文字数:5,926 底本発行年:1950
著者リスト:
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序章-章なし

むかしむかし、町といなかに、大きなやしきをかまえて、金のぼんと銀のおさらをもって、きれいなおかざりとぬいはくのある、いす、つくえと、それに、総金そうきんぬりの馬車までももっている男がありました。 こんなしあわせな身分でしたけれど、ただひとつ、運のわるいことは、おそろしい青ひげをはやしていることで、それはどこのおくさんでも、むすめさんでも、この男の顔を見て、あっといって、逃げ出さないものはありませんでした。

さて、この男のやしき近くに、身分のいいおくさんがあって、ふたり、美しいむすめさんをもっていました。 この男は、このむすめさんのうちどちらでもいいから、ひとり、およめさんにもらいたいといって、たびたび、この奥さんをせめました。 けれど、ふたりがふたりとも、むすめたちは、この男を、それはそれはきらっていて、逃げまわってばかりいました。 なにしろ青ひげをはやした男なんか、考えただけでも、ぞっとするくらいですし、それに、胸のわるいほどいやなことには、この男は、まえからも、いく人か奥さまをもっていて、しかもそれがひとりのこらず、どこへどう行ってしまったか、ゆくえが分からなくなっていることでした。

そこで、青ひげは、これは、このむすめさん親子のごきげんをとって、じぶんがすきになるようにしむけることが、なによりちか道だと考えました。 そこで、あるとき、親子と、そのほか近所きんじょで知りあいの若い人たちをおおぜい、いなかのやしきにまねいて、一週間しゅうかんあまりもとめて、ありったけのもてなしぶりをみせました。

それは、まい日、まい日、野あそびに出る、かりに行く、つりをする、ダンスの会だの、夜会やかいだの、お茶の会だのと、目のまわるようなせわしさでした。 よるになっても、たれもねどこにはいろうとするものもありません。 よいがすぎても、夜中がすぎても、みんなそこでもここでも、おしゃべりをして、わらいさざめいて、ふざけっこしたり、歌をうたいあったり、それはそれは、にぎやかなことでした。 とうとうこんなことで、なにもかも、とんとんびょうしにうまくはこんで、すえの妹のほうがまず、このやしきの主人のひげを、もうそんなに青くは思わないようになり、おまけに、りっぱな、礼儀れいぎただしい紳士しんしだとまでおもうようになりました。

さて、うちへかえるとまもなく、ご婚礼こんれいの式がすみました。

それから、ひと月ばかりたったのちのことでした。

青ひげは、ある日、おくがたにむかって、これから、あるたいせつな用むきで、どうしても六週間しゅうかん、いなかへ旅をしてこなければならない。 そのかわり、るすのあいだの気ばらしに、お友だちや知りあいの人たちを、やしきに呼んで、里の家にいたじぶんとおなじように、おもしろおかしく遊んで、くらしてもかまわないから、といいました。

「さて、」と、そのあとで、青ひげは奥がたにいいました。 「これはふたつとも、わたしのいちばん大事だいじ道具どうぐのはいっている大戸棚おおとだなのかぎだ。 これはふだん使わない金銀の皿を入れた戸棚のかぎだ。 これは金貨きんかと銀貨をいっぱい入れた金庫きんこのかぎだ。 これは宝石ほうせき箱のかぎだ。 これはへやのこらずの合いかぎだ。 さて、ここにもうひとつ、ちいさなかぎがあるが、これは地下室ちかしつの大ろうかの、いちばんおくにある、小べやをあけるかぎだ。 戸棚という戸棚、へやというへやは、どれをあけてみることも、中にはいってみることも、おまえの勝手かってだが、ただひとつ、この小べやだけは、けっしてあけてみることも、まして、はいってみることはならないぞ。 これはかたく止めておく。 万一にもそれにそむけば、おれはおこって、なにをするか分からないぞ。」

奥がたは、おいいつけのとおり、かならず守りますと、やくそくしました。 やがて青ひげは、奥がたにやさしくせっぷんして、四輪馬車に乗って、旅だって行きました。

すると、おくがたの知りあいや、お友だちは、お使を待つまも、もどかしがって、われさきにあつまって来ました。 およめ入りさきの、りっぱな住まいのようすが、どんなだか、どのくらい、みんなは見たがっていたでしょう。 ただ主人がうちにいるときは、れいの青ひげがこわくて、たれも寄りつけなかったのでございます。

みんなは、居間いま客間きゃくま、大広間から、小べや、衣裳いしょうべやと、片っぱしから見てあるきましたが、いよいよ奥ぶかく見て行くほど、だんだんりっぱにも、きれいにもなっていくようでした。

とうとうおしまいに、いっぱい家具かぐのつまった、大きなへやに来ました。 そのなかの道具どうぐやおきものは、このやしきのうちでも、一等りっぱなものでした。 かべかけでも、ねだいでも、長いすでも、たんすでも、つくえや、いすでも、頭のてっぺんから、足のつまさきまでうつるすがたみでも、それはむやみにたくさんあって、むやみにぴかぴか光って、きれいなので、たれもかれも、ただもう、かんしんして、ふうと、ため息をつくだけでした。 すがたみのなかには、水晶すいしょうのふちのついたものもありました。 金銀めっきのふちのついたものもありました。

序章-章なし
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青ひげ - 情報

青ひげ

あおひげ

文字数 5,926文字

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底本 世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの

青空情報


底本:「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」小峰書店
   1950(昭和25)年5月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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