黄色な顔
原題:THE YELLOW FACE
著者:コナンドイル Conan Doyle
きいろなかお
文字数:21,077 底本発行年:1930
私は私の仲間の話をしようとすると、我知らず失敗談よりも成功談が多くなる。
無論それらの話の中では、私は時によっては登場人物の一人になっているし、でなくても私はいつも深い関心を持たせられているのだが、――しかしこれは何も、私の仲間の名声のためにそうするわけではない。
なぜなら事実において、私の仲間の努力と、多種多様な才能とは
シャーロック・ホームズと云う男は、滅多に、身体を鍛えるために運動などをする男ではなかった。
が、彼よりはげしい肉体労働に
それは早春のある日のことであったが、彼はノンビリした気持ちで私と公園へ散歩に出かけた。
「壇那さま、お留守にお客さまがお見えになりました」
と、彼が
ホームズは非難するかのように私をジロッと見た。
「少し散歩が長すぎたな」
と云って、それから給仕に向って云った。
「それで、そのお客さまは帰っちまったのか?」
「ええ」
「中へ
「いえ、中へお通ししたんです」
「どのくらい待ってたのかね」
「三十分ばかり。 ――でも、大変せっかちな壇那でしてね、ここにいらっしゃる間も始終、歩き廻ったり足踏みをしたりしていらっしゃいました。 私、戸の外でお待ちしておりましたもので、よくそれが分りましたよ。 けれどもそのうちにとうとう外へ出て来て、「帰って来ないようじゃないか」とおっしゃるんです。 ですから私は申し上げました。 「ほんのもう少しお待ちになって下さい」って。 すると「じゃ、じき戻って来るよ」と云って出ていっておしまいになるんでしょう。 それから私、まだいろいろ申上げたんですけれど、でもお引き止め出来ませんでした」
「よしよし、結構結構」
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黄色な顔 - 情報
青空情報
底本:「世界探偵小説全集 第三卷 シヤーロツク・ホームズの記憶」平凡社
1930(昭和5)年2月5日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「貴方→あなた 或いは→あるいは 如何なる→いかなる 於て→おいて 彼→か 位→くらい 呉れ→くれ 此→こ 此処→ここ 而→しか 然し→しかし 直き→じき 知れない→しれない 随分→ずいぶん 其→そ 度く→たく 沢山→たくさん 只→ただ 多分→たぶん 給え→たまえ 爲→ため 頂戴→ちょうだい 丁度→ちょうど ちゃあ居→ちゃあい て戴→ていただ て置→てお て見→てみ 所→ところ 尚→なお 乍ら→ながら 程→ほど 殆ど→ほとんど 亦・又→また 間もなく→まもなく 見る見る→みるみる 寧ろ→むしろ 勿論→もちろん 貰→もら 漸く→ようやく 余程→よほど」
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※底本中、混在している「途方」と「途法」はそのままにしました。また「アトランタ」「エトラント」「アトラント」は「アトランタ」に統一しました。
※底本は総ルビですが、一部を省きました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(加藤祐介)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2004年5月17日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:黄色な顔