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醜い家鴨の子

原題:DEN GRIMME AELLING

著者:ハンス・クリスチャン・アンデルゼン Hans Christian Andersen

みにくいあひるのこ

文字数:10,320 底本発行年:1928
著者リスト:
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序章-章なし

それは田舎いなかなつのいいお天気てんきことでした。 もう黄金色こがねいろになった小麦こむぎや、まだあお燕麦からすむぎや、牧場ぼくじょうげられた乾草堆ほしくさづみなど、みんなきれいなながめにえるでした。 こうのとりはながあかあしあるきまわりながら、母親ははおやからおそわったみょう言葉ことばでおしゃべりをしていました。

麦畑むぎばたけ牧場ぼくじょうとはおおきなもりかこまれ、そのなかふか水溜みずだまりになっています。 まったく、こういう田舎いなか散歩さんぽするのは愉快ゆかいことでした。

そのなかでもこと日当ひあたりのいい場所ばしょに、かわちかく、気持きもちのいいふる百姓家ひゃくしょうや[#「百姓家が」は底本では「百性家が」]っていました。 そしてそのいえからずっと水際みずぎわあたりまで、おおきな牛蒡ごぼうしげっているのです。 それは実際じっさいずいぶんたけたかくて、その一番いちばんたかいのなどは、した子供こどもがそっくりかくれること出来できるくらいでした。 人気ひとけがまるでくて、まったふかはやしなかみたいです。 この工合ぐあいのいいかくに一家鴨あひるがそのときについてたまごがかえるのをまもっていました。 けれども、もうだいぶ時間じかんっているのにたまごはいっこうからやぶれる気配けはいもありませんし、たずねてくれる仲間なかまもあまりないので、この家鴨あひるは、そろそろ退屈たいくつしかけてました。 ほか家鴨達あひるたちは、こんな、あしすべりそうな土堤どてのぼって、牛蒡ごぼうしたすわって、この親家鴨おやあひるとおしゃべりするより、かわおよまわほうがよっぽど面白おもしろいのです。

しかし、とうとうやっとひとつ、からけ、それからつづいて、ほかのもれてきて、めいめいのたまごから、一ずつものました。 そしてちいさなあたまをあげて、

「ピーピー。」

と、くのでした。

「グワッ、グワッっておい。」

と、母親ははおやおしえました。 するとみんな一生懸命いっしょうけんめい、グワッ、グワッと真似まねをして、それから、あたりのあおおおきな見廻まわすのでした。

「まあ、世界せかいってずいぶん広いもんだねえ。」

と、子家鴨達あひるたちは、いままでたまごからんでいたときよりも、あたりがぐっとひろびろしているのをおどろいていました。 すると母親ははおやは、

なんだね、お前達まえたちこれだけが全世界ぜんせかいだとおもってるのかい。 まあそんなことはあっちのおにわてからおいよ。 なにしろ牧師ぼくしさんのはたけほうまでつづいてるってことだからね。 だが、わたしだってまだそんなきのほうまではったことがないがね。 では、もうみんなそろったろうね。」

と、いかけて、

「おや! 一番いちばんおおきいのがまだれないでるよ。 まあ一体いったいいつまでたせるんだろうねえ、きしちまった。」

そうって、それでもまた母親ははおやすわりなおしたのでした。

今日こんにちは。 御子様おこさまはどうかね。」

そういながらとしとった家鴨あひるがやってました。

いまねえ、あとひとつのたまごがまだかえらないんですよ。」

と、親家鴨おやあひるこたえました。

「でもまあほか子達こたちてやって下さい。 ずいぶんきりょうしばかりでしょう? みんあ父親ちちおやそっくりじゃありませんか。 不親切ふしんせつで、ちっとも私達あたしたちかえってない父親ちちおやですがね。」

序章-章なし
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醜い家鴨の子 - 情報

醜い家鴨の子

みにくいあひるのこ

文字数 10,320文字

著者リスト:

底本 小學生全集第五卷 アンデルゼン童話集

青空情報


底本:「小學生全集第五卷 アンデルゼン童話集」興文社、文藝春秋社
   1928(昭和3)年8月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、次の書き換えを行いました。
「或→ある 余り→あまり 一向→いっこう 一旦→いったん 中→うち 彼→か 却って→かえって かも知れない→かもしれない 位→くらい 此処→ここ 此の→この 随分→ずいぶん 直ぐ→すぐ 其処→そこ 其・其の→その 其中→そのうち 大分→だいぶ・だいぶん 沢山→たくさん 唯→ただ 多分→たぶん 為→ため 段々→だんだん 丁度→ちょうど 一寸→ちょっと て居る→ておる 何→ど 何処→どこ 兎に角→とにかく 程→ほど 益々→ますます 又→また 迄→まで 間もなく→まもなく 余っぽど→よっぽど」
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:醜い家鴨の子

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