華々しき一族
著者:森本薫
はなばなしきいちぞく - もりもと かおる
文字数:41,119 底本発行年:1970
        
人
鉄風
諏訪

須貝
一
川に臨んだコテージ風の住居の一部分。 川を見下ろし、二階への階段をもつ。
六月の末、その晴れた一日、午後四時過ぎ。 須貝、未納、二人共軽装。
須貝 (椅子に掛けて、ラケットをいじくりながら)
未納 だって、勝とうと思ったら、誰だって……難しい球打つわよ。
須貝 僕があんなボールを打てないと思ったら間違いだぜ。 わざっと打たないだけの話さ。
未納 (窓の傍で)御覧なさい。 須貝さん。
須貝 何が見えます。
未納 そんなところで、何か言ってないでさァ。
須貝 言い給え。
未納 用心深いのね。
須貝 猫がいる! それとも犬か?
未納 お洗濯の連中よ、また引っ張られてくらしい。
須貝 珍らしくもない。
未納 珍らしいものなんて、言ってやしないわ。
須貝 一晩
未納 ああ言うのは、仕方がないのね。
須貝 連れてく方でも持てあましてるんだろう。
未納 直ぐ還して貰えるもんで、馴れっこになってるんだわ。
須貝 
未納 泳ぐつもり? 須貝さん。
須貝 風致保存区域だって、泳ぐぶんには
未納 連れてかれてよ。 構わない。
須貝 風致を害するか。
未納 洗濯どころじゃない。
須貝 近代的な景色でいいと思うがな。