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大宇宙遠征隊

著者:海野十三

だいうちゅうえんせいたい - うんの じゅうざ

文字数:53,253 底本発行年:1988
著者リスト:
著者海野 十三
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噴行艇ふんこうてい

黒いインキをとかしたようなまっくらがりの宇宙を、今おびただしい噴行艇の群が、とんでいる。

「噴行艇だ!」

噴行艇といっても、なんのことか、わからない人もあるであろう。 噴行艇は、ロケットとも呼ばれていた時代があった。 飛行機は、空をとぶことができるが、空気のないところではとべない。 しかし噴行艇は、空気のないところでも、よくとべるのだ。 艇尾ていびへむけ、八本の噴管ふんかんから、或る瓦斯ガスを、はげしくきだすと、そのいきおいで、艇は前方にすすむのである。 艇尾には、かじがあって、これをうごかすと、とびゆく方向は、どうでもかわるのであった。 大宇宙をとぶには、飛行機ではとてもだめであるが、この噴行艇なら、瓦斯のつづくかぎり、大宇宙をとぶことができる。

飛行機時代から、次にこの噴行艇時代にうつっていった。

それとともに、人間の目は、地球からはなれ、さらに遠い大宇宙へむけられたのであった。

今、おびただしい噴行艇の群も、大宇宙をとんでいく。

砲弾を大きくして、尾部に――噴管をつけ、そして大きな翼をうしろの方まで、ずっとのばすと、それはそっくり噴行艇の形になる。

銀白色のうつくしい姿の噴行艇だった。 その胴に、ときどき前にいく僚艇りょうていの噴射瓦斯が青白く反射する。 また、ときおりは、空を一杯いっぱいに、ダイヤモンドをふりまいたような無数のかげが艇の胴のうえに、きらりと光をおとすこともあった。

ごうごうたる爆音をあげて、とびゆく噴行艇の群!

右まきの螺旋形らせんけいをつくって、行儀ぎょうぎよくとんでいく噴行艇群だった。

群は、前後に、いくつかのかたまりになって、無数のがんの群がとんでいるのと、どこか似たところがあった。

噴行艇の胴に、黄いろいびょうのようなものが並んでみえる。 しかし、それは鋲ではない。 丸窓なのである。

丸窓の類は、一つの噴行艇について、およそ百に近かった。 その黄いろい丸窓から、人間の顔が一つずつのぞいたとしても、百人の人間が、艇内にいるわけだ。 なんという大きな噴行艇であろうか。

しかし、噴行艇には、百人よりも、もっとたくさんの人間がのりこんでいた。

これから、わたくしがお話しようと思う噴行艇アシビキ号には、二百三十人の日本人がのっている。 みんな日本人ばかりであった。

いや、日本人がのっているのは、このアシビキ号だけではない。 今、この大宇宙を、大きな一かたまりになってとんでいる噴行艇の、どの艇にも、日本人がのっていた。 いや、もっとはっきりいうと、全部で、百七十の噴行艇の乗組員は、ことごとく日本人でしめられていたのである。

この噴行艇群は、一体どこへ向けてとんでいるのであろうか。 また何の目的で、このような大宇宙へとびだしたのであろうか。 総員四万余名もの日本人が、なぜ一かたまりになって、とんでいるのであろうか。 読者諸君はふしぎに思われるであろうが、全くのところ、今から五十年前の人間には、想像がつかないのも無理ではない。

では、作者は、噴行艇アシビキ号の中にのりくんでいる一人の少年風間三郎かざまさぶろうの身のまわりから描写の筆をおこすことにしよう。

十五年の行程こうてい

「おい、三郎。 いつまで、ねているんだい。

噴行艇ふんこうてい

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大宇宙遠征隊 - 情報

大宇宙遠征隊

だいうちゅうえんせいたい

文字数 53,253文字

著者リスト:
著者海野 十三

底本 海野十三全集 第9巻 怪鳥艇

青空情報


底本:「海野十三全集 第9巻 怪鳥艇」三一書房
   1988(昭和63)年10月30日第1版第1刷発行
初出:「国民五年生」
   1941(昭和16)年4月号〜(終号未詳)
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2004年3月5日作成
2019年1月14日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

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