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海神別荘

著者:泉鏡花

かいじんべっそう - いずみ きょうか

文字数:22,628 底本発行年:1942
著者リスト:
著者泉 鏡花
底本: 泉鏡花集成7
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序章-章なし

時。

現代。

場所。

海底の琅※(「王+干」、第3水準1-87-83)殿。

人物。

公子。 沖の僧都。 (年老いたる海坊主)美女。 博士。

女房。 侍女。 (七人)黒潮騎士。 (多数)

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森厳藍碧しんげんらんぺきなる※(「王+干」、第3水準1-87-83)殿裡ろうかんでんり 黒影こくえいあり。 ――沖の僧都そうず

僧都 お腰元衆。

侍女一 (薄色の洋装したるがドアよりづ)はい、はい。 これは御僧おそう

僧都 や、目覚しく、美しい、かわった扮装いでたちでおいでなさる。

侍女一 御挨拶ごあいさつでございます。 美しいかどうかは存じませんけれど、異った支度には違いないのでございます。 若様、かねてのお望みがかないまして、今夜お輿入こしいれのございます。 若奥様が、島田のおぐし、お振袖と承りましたから、わたくしどもは、余計そのお姿のお目立ち遊ばすように、皆して、かように申合せましたのでございます。

僧都 はあ、さてもお似合いなされたが、いずこの浦の風俗じゃろうな。

侍女一 度々海の上へお出でなさいますもの、よく御存じでおあんなさいましょうのに。

僧都 いや、荒海を切って影をあらわすのは暴風雨あらしの折から。 如法にょほうたいてい暗夜やみじゃに因って、見えるのは墓の船に、死骸しがいうごめ裸体はだかばかり。 色ある女性にょしょうきぬなどは睫毛まつげにもかかりませぬ。 さりとも小僧のみぎりはの、あおい炎の息を吹いても、素奴しゃつ色の白いはないか、袖のあかいはないか、と胴の狭間はざま、帆柱の根、錨綱いかりづなの下までも、あなぐり探いたものなれども、孫子まごこけ、僧都においては、久しく心にも掛けませいで、一向に不案内じゃ。

侍女一 (笑う)お精進しょうじんでおいで遊ばします。 もし、これは、桜貝、蘇芳貝すおうがい、いろいろの貝をしべにして、花の波が白く咲きます、そのなぎさを、青い山、緑の小松に包まれて、大陸のおんなたちが、夏の頃、百合、桔梗ききょう、月見草、夕顔の雪のよそおいなどして、あさひの光、月影に、はるかに(高濶こうかつなる碧瑠璃へきるりの天井を、髪つややかに打仰ぐ)姿を映します。 ああ、風情な。 美しいとながめましたものでございますから、わたくしども皆が、今夜はこの服装なりに揃えました。

僧都 一段とお見事じゃ。 が、朝ほど御機嫌伺いに出ました節は、御殿ごてん、お腰元衆、いずれも不断の服装なりでおいでなされた。 その節は、今宵、あの美女がこれへ輿入の儀はまだきまらなんだ。 じたい人間は決断が遅いに因ってな。

序章-章なし
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海神別荘 - 情報

海神別荘

かいじんべっそう

文字数 22,628文字

著者リスト:
著者泉 鏡花

底本 泉鏡花集成7

親本 鏡花全集 第二十六卷

青空情報


底本:「泉鏡花集成7」ちくま文庫、筑摩書房
   1995(平成7)年12月4日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十六卷」岩波書店
   1942(昭和17)年10月15日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:染川隆俊
2006年9月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:海神別荘

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