瓶詰地獄
著者:夢野久作
びんづめじごく - ゆめの きゅうさく
文字数:6,655 底本発行年:1998
拝呈 時下益々御清栄、
月 日
××島村役場※[#丸印、U+329E、36-10]
海洋研究所 御中
◇第一の瓶の内容
ああ………この離れ島に、救いの舟がとうとう来ました。
大きな二本のエントツの舟から、ボートが二艘、荒浪の上におろされました。 舟の上から、それを見送っている人々の中にまじって、私たちのお父さまや、お母さまと思われる、なつかしいお姿が見えます。 そうして……おお……私たちの方に向って、白いハンカチを振って下さるのが、ここからよくわかります。
お父さまや、お母さまたちはきっと、私たちが一番はじめに出した、ビール瓶の手紙を御覧になって、助けに来て下すったに違いありませぬ。
大きな船から真白い煙が出て、今助けに行くぞ……というように、高い高い笛の音が聞こえて来ました。
その音が、この小さな島の中の、
けれども、それは、私たち二人にとって、最後の審判の日の
ああ。
手が
私たち二人は、今から、あの大きな船の真正面に在る高い崖の上に登って、お父様や、お母様や、救いに来て下さる水夫さん達によく見えるように、シッカリと抱き合ったまま、深い淵の中に身を投げて死にます。 そうしたら、いつも、あそこに泳いでいるフカが、間もなく、私たちを喰べてしまってくれるでしょう。 そうして、あとには、この手紙を詰めたビール瓶が一本浮いているのを、ボートに乗っている人々が見つけて、拾い上げて下さるでしょう。
ああ。
お父様。
お母様。
すみません。
すみません、すみません、すみません。
私たちは初めから、あなた方の
又、せっかく、遠い
私たちは、こうして私たちの肉体と
どうぞ、これより
ああ。 さようなら。
神様からも人間からも救われ得ぬ
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
瓶詰地獄 - 情報
青空情報
底本:「夢野久作怪奇幻想傑作選 あやかしの鼓」角川ホラー文庫、角川書店
1998(平成10)年4月10日初版発行
初出:「猟奇」
1928(昭和3)年10月
入力:林裕司
校正:浜野智
1998年11月10日公開
2019年4月21日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:瓶詰地獄