セメント樽の中の手紙
著者:葉山嘉樹
セメントだるのなかのてがみ - はやま よしき
文字数:2,510 底本発行年:1968
松戸与三はセメントあけをやっていた。
外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色に
彼は鼻の穴を気にしながら
彼が
「何だろう?」と彼はちょっと不審に思ったが、そんなものに構って居られなかった。
彼はシャヴルで、セメン
「だが待てよ。 セメント樽から箱が出るって法はねえぞ」
彼は小箱を拾って、腹かけの
「軽い処を見ると、金も入っていねえようだな」
彼は、考える間もなく次の樽を空け、次の桝を量らねばならなかった。
ミキサーはやがて
彼は、ミキサーに引いてあるゴムホースの水で、
「チェッ! やり切れねえなあ、
「一円九十銭の日当の中から、日に、五十銭の米を二升食われて、九十銭で着たり、住んだり、
が、フト彼は丼の中にある小箱の事を思い出した。 彼は箱についてるセメントを、ズボンの尻でこすった。
箱には何にも書いてなかった。
そのくせ、
「思わせ振りしやがらあ、釘づけなんぞにしやがって」
彼は石の上へ箱を
彼が拾った小箱の中からは、ボロに包んだ紙切れが出た。 それにはこう書いてあった。
――私はNセメント会社の、セメント袋を縫う女工です。
私の恋人は
仲間の人たちは、助け出そうとしましたけれど、水の中へ
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セメント樽の中の手紙 - 情報
青空情報
底本:「全集・現代文学の発見・第一巻 最初の衝撃」学芸書林
1968(昭和43)年9月10日第1刷発行
入力:山根鋭二
校正:かとうかおり
1998年10月3日公開
2006年2月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:セメント樽の中の手紙