ツェねずみ
著者:宮沢賢治
ツェねずみ - みやざわ けんじ
文字数:4,851 底本発行年:1951
ある古い家の、まっくらな天井裏に、「ツェ」という名まえのねずみがすんでいました。
ある日ツェねずみは、きょろきょろ四方を見まわしながら、
「おい、ツェねずみ。
お前んとこの
ツェねずみは、もうひげもぴくぴくするくらいよろこんで、いたちにはお礼も言わずに、いっさんにそっちへ走って行きました。 ところが戸棚の下まで来たとき、いきなり足がチクリとしました。 そして、「止まれ、だれかっ。」 と言う小さな鋭い声がします。
ツェねずみはびっくりしてよく見ますと、それは
「ここから内へはいってならん。
早く帰れ。
帰れ、帰れ。」
蟻の
ねずみはくるっと一つまわって、いちもくさんに天井裏へかけあがりました。
そして巣の中へはいって、しばらくねころんでいましたが、どうもおもしろくなくて、おもしろくなくて、たまりません。
いたちはちょうど、とうもろこしのつぶを、歯でこつこつかんで粉にしていましたが、ツェねずみを見て言いました。
「どうだ。 金米糖がなかったかい。」
「いたちさん。
ずいぶんお前もひどい人だね。
「だましゃせん。 たしかにあったのや。」
「あるにはあっても、もう蟻が来てましたよ。」
「蟻が、へい。 そうかい。 早いやつらだね。」
「みんな蟻がとってしまいましたよ。
私のような弱いものをだますなんて、
「それはしかたない。 お前の行きようが少しおそかったのや。」