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注文の多い料理店

著者:宮沢賢治

ちゅうもんのおおいりょうりてん - みやざわ けんじ

文字数:5,391 底本発行年:1986
著者リスト:
著者宮沢 賢治
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序章-章なし

二人の若い紳士が、すつかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴか/\する鉄砲をかついで、白熊しろくまのやうな犬を二ひきつれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさ/\したとこを、こんなことをひながら、あるいてをりました。

「ぜんたい、こゝらの山はしからんね。 鳥も獣も一疋も居やがらん。 なんでも構はないから、早くタンタアーンと、やつて見たいもんだなあ。」

鹿しかの黄いろな横つ腹なんぞに、二三発お見舞まうしたら、ずゐぶん痛快だらうねえ。 くる/\まはつて、それからどたつと倒れるだらうねえ。」

それはだいぶの山奥でした。 案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちよつとまごついて、どこかへ行つてしまつたくらゐの山奥でした。

それに、あんまり山が物凄ものすごいので、その白熊のやうな犬が、二疋いつしよにめまひを起して、しばらくうなつて、それから泡を吐いて死んでしまひました。

「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬のぶたを、ちよつとかへしてみて言ひました。

「ぼくは二千八百円の損害だ。」 と、もひとりが、くやしさうに、あたまをまげて言ひました。

はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じつと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云ひました。

「ぼくはもう戻らうとおもふ。」

「さあ、ぼくもちやうど寒くはなつたし腹はいてきたし戻らうとおもふ。」

「そいぢや、これで切りあげやう。 なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を拾円も買つて帰ればいゝ。」

うさぎもでてゐたねえ。 さうすれば結局おんなじこつた。 では帰らうぢやないか」

ところがどうも困つたことは、どつちへ行けば戻れるのか、いつかう見当がつかなくなつてゐました。

風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。

「どうも腹が空いた。 さつきから横つ腹が痛くてたまらないんだ。」

「ぼくもさうだ。 もうあんまりあるきたくないな。」

「あるきたくないよ。 あゝ困つたなあ、何かたべたいなあ。」

「喰べたいもんだなあ」

二人の紳士は、ざわざわ鳴るすゝきの中で、こんなことを云ひました。

その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。

そして玄関には

RESTAURANT

西洋料理店

WILDCAT HOUSE

山猫軒

といふ札がでてゐました。

「君、ちやうどいゝ。 こゝはこれでなかなか開けてるんだ。

序章-章なし
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注文の多い料理店 - 情報

注文の多い料理店

ちゅうもんのおおいりょうりてん

文字数 5,391文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 宮沢賢治全集8

青空情報


底本:「宮沢賢治全集8」ちくま文庫、筑摩書房
   1986(昭和61)年1月28日第1刷発行
   2004(平成16)年4月25日第20刷発行
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
   1924(大正13)年12月1日
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年2月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:注文の多い料理店

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