注文の多い料理店
著者:宮沢賢治
ちゅうもんのおおいりょうりてん - みやざわ けんじ
文字数:5,391 底本発行年:1986
二人の若い紳士が、すつかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴか/\する鉄砲をかついで、
「ぜんたい、こゝらの山は
「
それはだいぶの山奥でした。 案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちよつとまごついて、どこかへ行つてしまつたくらゐの山奥でした。
それに、あんまり山が
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の
「ぼくは二千八百円の損害だ。」 と、もひとりが、くやしさうに、あたまをまげて言ひました。
はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じつと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云ひました。
「ぼくはもう戻らうとおもふ。」
「さあ、ぼくもちやうど寒くはなつたし腹は
「そいぢや、これで切りあげやう。 なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を拾円も買つて帰ればいゝ。」
「
ところがどうも困つたことは、どつちへ行けば戻れるのか、いつかう見当がつかなくなつてゐました。
風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
「どうも腹が空いた。 さつきから横つ腹が痛くてたまらないんだ。」
「ぼくもさうだ。 もうあんまりあるきたくないな。」
「あるきたくないよ。 あゝ困つたなあ、何かたべたいなあ。」
「喰べたいもんだなあ」
二人の紳士は、ざわざわ鳴るすゝきの中で、こんなことを云ひました。
その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。
そして玄関には
RESTAURANT
西洋料理店
WILDCAT HOUSE
山猫軒
といふ札がでてゐました。
「君、ちやうどいゝ。 こゝはこれでなかなか開けてるんだ。