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カイロ団長

著者:宮沢賢治

カイロだんちょう - みやざわ けんじ

文字数:9,331 底本発行年:1989
著者リスト:
著者宮沢 賢治
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序章-章なし

あるとき、三十ぴきのあまがえるが、一緒いっしょ面白おもしろく仕事をやってりました。

これは主に虫仲間からたのまれて、紫蘇しその実やけしの実をひろって来て花ばたけをこしらえたり、かたちのいい石やこけを集めて来て立派なお庭をつくったりする職業しょうばいでした。

こんなようにして出来たきれいなお庭を、私どもはたびたび、あちこちで見ます。 それは畑のまめの木の下や、林のならの木の根もとや、また雨垂あまだれの石のかげなどに、それはそれは上手に可愛かあいらしくつくってあるのです。

さて三十疋は、毎日大へん面白くやっていました。 朝は、黄金色きんいろのお日さまの光が、とうもろこしの影法師かげぼうしを二千六百寸も遠くへ投げ出すころからさっぱりした空気をすぱすぱ吸って働き出し、夕方は、お日さまの光が木や草の緑を飴色あめいろにうきうきさせるまで歌ったり笑ったりさけんだりして仕事をしました。 ことにあらしの次の日などは、あっちからもこっちからもどうか早く来てお庭をかくしてしまった板を起して下さいとか、うちのすぎごけの木がたおれましたから大いそぎで五六人来てみて下さいとか、それはそれはいそがしいのでした。 いそがしければいそがしいほど、みんなは自分たちが立派な人になったような気がして、もう大よろこびでした。 さあ、それ、しっかりひっぱれ、いいか、よいとこしょ、おい、ブチュコ、なわがたるむよ、いいとも、そらひっぱれ、おい、おい、ビキコ、そこをはなせ、縄を結んでれ、よういやさ、そらもう一いき、よおいやしゃ、なんてまあこんな工合ぐあいです。

ところがある日三十疋のあまがえるが、ありの公園地をすっかり仕上げて、みんなよろこんで一まず本部へ引きあげる途中とちゅうで、一本のももの木の下を通りますと、そこへ新らしい店が一けん出ていました。 そして看板がかかって、

舶来はくらいウェスキイ 一ぱい、二りん半。」 と書いてありました。

あまがえるはめずらしいものですから、ぞろぞろ店の中へはいって行きました。 すると店にはうすぐろいとのさまがえるが、のっそりとすわって退くつそうにひとりでべろべろ舌を出して遊んでいましたが、みんなの来たのを見て途方もないいい声でいました。

「へい、いらっしゃい。 みなさん。 一寸ちょっとおやすみなさい。」

「なんですか。 舶来のウェクーというものがあるそうですね。 どんなもんですか。 ためしに一杯ませて下さいませんか。」

「へい、舶来のウェスキイですか。 一杯二厘半ですよ。 ようござんすか。」

「ええ、よござんす。」

とのさまがえるはあわつぶをくりいたコップにその強いお酒をんで出しました。

「ウーイ。 これはどうもひどいもんだ。 腹がやけるようだ。 ウーイ。 おい、みんな、これはきたいなもんだよ。 咽喉のどへはいると急に熱くなるんだ。 ああ、いい気分だ。 もう一杯下さいませんか。」

「はいはい。 こちらが一ぺんすんでからさしあげます。」

「こっちへも早く下さい。」

「はいはい。

序章-章なし
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カイロ団長 - 情報

カイロ団長

カイロだんちょう

文字数 9,331文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 新編 銀河鉄道の夜

青空情報


底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
   1989(平成元)年6月15日発行
   1994(平成6)年6月5日13刷
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年5月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:カイロ団長

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