人生論ノート
著者:三木清
じんせいろんノート - みき きよし
文字数:70,524 底本発行年:1954
死について
近頃私は死というものをそんなに恐しく思わなくなった。 年齢のせいであろう。 以前はあんなに死の恐怖について考え、また書いた私ではあるが。
思いがけなく来る通信に黒枠のものが次第に多くなる年齢に私も達したのである。
この数年の間に私は一度ならず近親の死に会った。
そして私はどんなに苦しんでいる病人にも死の瞬間には平和が来ることを目撃した。
墓に
私はあまり病気をしないのであるが、病床に横になった時には、不思議に心の落着きを覚えるのである。 病気の場合のほか真実に心の落着きを感じることができないというのは、現代人の一つの顕著な特徴、すでに現代人に極めて特徴的な病気の一つである。
実際、今日の人間の多くはコンヴァレサンス(病気の
愛する者、親しい者の死ぬることが多くなるに従って、死の恐怖は反対に薄らいでゆくように思われる。
生れてくる者よりも死んでいった者に一層近く自分を感じるということは、年齢の影響に
死について考えることが無意味であるなどと私はいおうとしているのではない。 死は観念である。
死について
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人生論ノート - 情報
青空情報
底本:「人生論ノート」新潮文庫、新潮社
1954(昭和29)年9月30日発行
2011(平成23)年10月5日105刷改版
2012(平成24)年9月5日106刷
初出:下記以外「文學界」文藝春秋社
1938(昭和13)年6月〜1941(昭和16)年10月
個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館
1920(大正9)年7月1日発行
後記「人生論ノート」創元社
1941(昭和16)年8月11日発行
旅について 不詳
※「個性について」の初出時の表題は「個性の理解」です。
入力:阿部哲也
校正:砂場清隆
2017年12月26日作成
2018年2月9日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:人生論ノート