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誘惑

著者:芥川龍之介

ゆうわく - あくたがわ りゅうのすけ

文字数:7,781 底本発行年:1978
著者リスト:
著者芥川 竜之介
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天主教徒てんしゅきょうと古暦ふるごよみの一枚、その上に見えるのはこう云う文字である。 ――

御出生来ごしゅっしょうらい千六百三十四年。 せばすちあん記し奉る。

二月。

二十六日。 さんたまりやの御つげの日。

二十七日。 どみいご。

三月。

五日。 どみいご、ふらんしすこ。

十二日。 ……………

日本の南部の或山みち。 大きいくすの木の枝を張った向うに洞穴ほらあなの口が一つ見える。 しばらくたってから木樵きこりが二人。 この山みちを下って来る。 木樵りの一人は洞穴を指さし、もう一人に何か話しかける。 それから二人とも十字を切り、はるかに洞穴を礼拝する。

この大きい樟の木のこずえ の長い猿が一匹、或枝の上にすわったまま、じっと遠い海を見守っている。 海の上には帆前船ほまえせんが一そう 帆前船はこちらへ進んで来るらしい。

海を走っている帆前船が一艘。

この帆前船の内部。 紅毛人の水夫が二人、ほばしらの下にさいを転がしている。 そのうちに勝負の争いを生じ、一人の水夫は飛び立つが早いか、もう一人の水夫の横腹へずぶりとナイフを突き立ててしまう。 大勢の水夫は二人のまわりへ四方八方から集まって来る。

仰向あおむけになった水夫の死に顔。 突然その鼻の穴から尻っ尾の長い猿が一匹、あごの上にい出して来る。 が、あたりを見まわしたと思うとたちまち又鼻の穴の中へはいってしまう。

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誘惑 - 情報

誘惑

ゆうわく

文字数 7,781文字

著者リスト:

底本 昭和文学全集 第1巻

親本 芥川龍之介全集 第八卷

青空情報


底本:「昭和文学全集 第1巻」小学館
   1987(昭和62)年5月1日初版第1刷発行
底本の親本:「芥川龍之介全集 第八卷」岩波書店
   1978(昭和53)年3月22日発行
初出:「改造 第九卷第四号」
   1927(昭和2)年4月1日発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月26日公開
2016年2月25日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:誘惑

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