新版 放浪記
著者:林芙美子
しんぱん ほうろうき - はやし ふみこ
文字数:245,199 底本発行年:1955
第一部
[#改ページ]
放浪記以前
私は北九州の或る小学校で、こんな歌を習った事があった。
更けゆく秋の夜 旅の空の
恋いしや古里 なつかし父母
私は宿命的に放浪者である。
私は古里を持たない。
父は四国の伊予の人間で、
今の私の父は養父である。
このひとは岡山の人間で、実直過ぎるほどの小心さと、アブノーマルな山ッ気とで、人生の半分は苦労で埋れていた人だ。
私は母の連れ子になって、この父と一緒になると、ほとんど住家と云うものを持たないで暮して来た。
どこへ行っても
「お父つぁん、俺アもう、学校さ行きとうなかバイ……」
せっぱつまった思いで、私は小学校をやめてしまったのだ。
私は学校へ行くのが
直方の町は明けても暮れても
私には初めての見知らぬ土地であった。
私は三銭の小遣いを貰い、それを
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新版 放浪記 - 情報
青空情報
底本:「新版 放浪記」新潮文庫、新潮社
1979(昭和54)年9月30日初版発行
1983(昭和58)年7月30日9刷
底本の親本:「林芙美子作品集第一巻」新潮社
1955(昭和30)年12月初版発行
初出:「女人藝術」
1928(昭和3)年10月号〜1930(昭和5)年10月号
※底本の二重山括弧は、ルビ記号と重複するため、学術記号の「≪」(非常に小さい、2-67)と「≫」(非常に大きい、2-68)に代えて入力しました。
入力:任天堂株式会社
校正:松永正敏
2008年6月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:新版 放浪記