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芥川竜之介歌集

著者:芥川龍之介

あくたがわりゅうのすけかしゅう - あくたがわ りゅうのすけ

文字数:2,070 底本発行年:1995
著者リスト:
著者芥川 竜之介
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序章-章なし

目次

紫天鵞絨/桐/薔薇/客中恋/若人/砂上遅日

紫天鵞絨

やはらかく深紫の天鵞絨ビロウドをなづる心地か春の暮れゆく

いそいそと燕もまへりあたゝかく郵便馬車をぬらす春雨

ほの赤く岐阜提灯もともりけり「二つ巴」の春の夕ぐれ(明治座三月狂言)

戯奴ジヨーカーの紅き上衣に埃の香かすかにしみて春はくれにけり

なやましく春は暮れゆく踊り子の金紗の裾に春は暮れゆく

春漏の水のひゞきかあるはまた舞姫のうつとほき鼓か(京都旅情)

片恋のわが世さみしくヒヤシンスうすむらさきににほひそめけり

恋すればうら若ければかばかりに薔薇さうびの香にもなみだするらむ

麦畑の萌黄天鵞絨芥子けしの花五月の空にそよ風のふく

五月来ぬわすれな草もわが恋も今しほのかににほひづるらむ

刈麦のにほひに雲もうす黄なる野薔薇のかげの夏の日の恋

うかれ女のうすき恋よりかきつばたうす紫に匂ひそめけむ

[#改ページ]

桐 (To Signorina Y. Y.)

君をみていくとせかへしかくてまた桐の花さく日とはなりける

君とふとかよひなれにしあけくれをいくたびふみし落椿ぞも

広重のふるき版画のてざはりもわすれがたかり君とみればか

いつとなくいとけなき日のかなしみをわれにおしへし桐の花はも

病室のまどにかひたる紅き鳥しきりになきて君おもはする

夕さればあたごホテルも灯ともしぬわがかなしみをめざまさむとて

草いろのとばりのかげに灯ともしてなみだする子よ何をおもへる

くすり香もつめたくしむは病室の窓にさきたる※(「さんずい+自」、第3水準1-86-66)芙藍サフランの花

青チヨオク ADIEU と壁にかきすてゝ出でゆきし子のゆくゑしらずも

その日さりて消息もなくなりにたる風騒ふうそうの子をとがめたまひそ

いととほき花桐の香のそことなくおとづれくるをいかにせましや

(四・九・一四)

[#改ページ]

薔薇

すがれたる薔薇さうびをまきておくるこそふさはしからむ恋の逮夜は

香料をふりそゝぎたるふし床より恋の柩にしくものはなし

にほひよき絹の小枕クツサン薔薇色の羽ねぶとんもてきづかれし墓

夜あくれば行路の人となりぬべきわれらぞさはな泣きそ女よ

其夜より娼婦の如くなまめける人となりしをいとふのみかは

わが足にあぶらそゝがむ人もがなそを黒髪にぬぐふ子もがな(寺院にて三首)

ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり

うなだれて白夜の市をあゆむ時聖金曜の鐘のなる時

序章-章なし
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芥川竜之介歌集 - 情報

芥川竜之介歌集

あくたがわりゅうのすけかしゅう

文字数 2,070文字

著者リスト:

底本 芥川龍之介全集 第一巻

青空情報


底本:「芥川龍之介全集 第一巻」岩波書店
   1995(平成7)年11月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:本木まゆみ
1999年7月18日公開
2004年2月9日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:芥川竜之介歌集

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