絶対矛盾的自己同一
著者:西田幾多郎
ぜったいむじゅんてきじこどういつ - にしだ きたろう
文字数:49,743 底本発行年:1979
一
現実の世界とは物と物との相働く世界でなければならない。
現実の形は物と物との相互関係と考えられる、相働くことによって出来た結果と考えられる。
しかし物が働くということは、物が自己自身を否定することでなければならない、物というものがなくなって行くことでなければならない。
物と物とが相働くことによって一つの世界を形成するということは、逆に物が一つの世界の部分と考えられることでなければならない。
例えば、物が空間において相働くということは、物が空間的ということでなければならない。
その極、物理的空間という如きものを考えれば、物力は空間的なるものの変化とも考えられる。
しかし物が
かかる世界は作られたものから作るものへと動き行く世界でなければならない。
それは従来の物理学においてのように、不変的原子の相互作用によって成立する、即ち多の一として考えられる世界ではない。
右の如き矛盾的自己同一の世界は、いつも現在が現在自身を限定すると考えられる世界でなければならない。
それは因果論的に過去から決定せられる世界ではない、即ち多の一ではない、また目的論的に未来から決定せられる世界でもない、即ち一の多でもない。
元来、時は単に過去から考えられるものでもなければ、また未来から考えられるものでもない。
現在を単に瞬間的として連続的直線の一点と考えるならば、現在というものはなく、従ってまた時というものはない。
過去は現在において過ぎ去ったものでありながら
瞬間は直線的時の一点と考えねばならない。
しかし、プラトンが既に瞬間は時の外にあると考えた如く、時は非連続の連続として成立するのである。
時は多と一との矛盾的自己同一として成立するということができる。
具体的現在というのは、無数なる瞬間の同時存在ということであり、多の一ということでなければならない。
それは時の空間でなければならない。
そこには時の瞬間が否定せられると考えられる。
しかし多を否定する一は、それ自身が矛盾でなければならない。
瞬間が否定せられるということは、時というものがなくなることであり、現在というものがなくなることである。
然らばといって、時の瞬間が個々非連続的に成立するものかといえば、それでは時というものの成立しようはなく、瞬間というものもなくなるのである。
時は現在において瞬間の同時存在ということから成立せなければならない。
これを多の一、一の多として、現在の矛盾的自己同一から時が成立するというのである。
現在が現在自身を限定することから、時が成立するともいう
一
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絶対矛盾的自己同一 - 情報
青空情報
底本:「西田幾多郎哲学論集」岩波文庫、岩波書店
1989(昭和64)年12月18日第1刷発行
底本の親本:「西田幾多郎全集 第9巻」岩波書店
1979(昭和54)年6月
初出:「思想 第202号」
1939(昭和14)年3月
[]内の編集者による注記は省略しました。
入力:nns
校正:ちはる
2001年6月5日公開
2024年7月1日修正
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