一塊の土
著者:芥川龍之介
ひとくれのつち - あくたがわ りゅうのすけ
文字数:9,269 底本発行年:1968
お
仁太郎の葬式をすました後、まづ問題になつたものは嫁のお民の身の上だつた。
お民には男の子が一人あつた。
その上寝てゐる仁太郎の代りに野良仕事も大抵は引受けてゐた。
それを今出すとすれば、子供の世話に困るのは勿論、暮しさへ到底立ちさうにはなかつた。
かたがたお住は四十九日でもすんだら、お民に
それだけに丁度初七日の翌朝、お民の片づけものをし出した時には、お住の驚いたのも格別だつた。
お住はその時孫の広次を奥部屋の縁側に遊ばせてゐた。
遊ばせる
「のう、お民、おらあけふまで黙つてゐたのは悪いけんど、お前はよう、この子とおらとを置いたまんま、はえ、出て行つてしまふのかよう?」
お住は
「さうずらのう。 まさかそんなことをしやあしめえのう。 ……」
お住はなほくどくどと
「はいさね。
わしもお前さんさへ
お民もいつか涙ぐみながら、広次を膝の上へ抱き上げたりした。
広次は妙に
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お民は仁太郎の在世中と少しも変らずに働きつづけた。
しかし壻をとる話は思つたよりも容易に片づかなかつた。
お民は全然この話に何の興味もないらしかつた。
お住は勿論機会さへあれば、そつとお民の気を引いて見たり、あらはに相談を持ちかけたりした。
けれどもお民はその度ごとに、「はいさね、いづれ来年にでもなつたら」と
けれどもお民は翌年になつても、やはり野良へ出かける外には何の考へもないらしかつた。
お住はもう一度去年よりは一層