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修禅寺物語

著者:岡本綺堂

しゅぜんじものがたり - おかもと きどう

文字数:12,705 底本発行年:1970
著者リスト:
著者岡本 綺堂
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序章-章なし

(伊豆の修禅寺しゅぜんじ頼家よりいえおもてというあり。 作人も知れず。 由来もしれず。 木彫の仮面めんにて、年を経たるまま面目分明ならねど、いわゆる古色蒼然そうぜんたるもの、来たって一種の詩趣をおぼゆ。 当時を追懐してこの稿成る。)

登場人物

面作師おもてつくりし   夜叉王やしゃおう

夜叉王の娘 かつら

同     かえで

かえでの婿 春彦

源左金吾げんざきんご頼家

下田五郎景安かげやす

金窪兵衛尉行親かなくぼひょうえのじょうゆきちか

修禅寺の僧

行親の家来など

第一場

伊豆の国狩野かのの庄、修禅寺村(今の修善寺)桂川のほとり、夜叉王の住家。

藁葺わらぶきの古びたる二重家体。 破れたる壁に舞楽の面などをかけ、正面に紺暖簾こんのれんの出入口あり。 下手に炉を切りて、素焼の土瓶どびんなどかけたり。 庭の入口は竹にて編みたる門、外には柳の大樹。 そのうしろは畑を隔てて、塔の峰つづきの山または丘などみゆ。 元久元年七月十八日。

(二重の上手につづける一間の家体は細工場さいくばにて、三方に古りたる蒲簾がますだれをおろせり。 庭さきには秋草の花咲きたるかきに沿うて荒むしろを敷き、姉娘桂、二十歳。 妹娘楓、十八歳。 相対して紙砧かみぎぬたっている。)

かつら (やがて砧の手をやめる)※(「日+向」、第3水準1-85-25)いっときあまりも擣ちつづけたので、肩も腕もしびるるような。 もうよいほどにしてみょうでないか。

かえで とは言うものの、きのうまでは盆休みであったほどに、きょうからは精出して働こうではござんせぬか。

かつら 働きたくばお前ひとりで働くがよい。 父様ととさまにも春彦どのにもめられようぞ。 わたしはいやじゃ、いやになった。 (投げ出すように砧を捨つ)

かえで 貧の手業てわざ姉妹きょうだいが、年ごろ擣ちなれた紙砧を、とかくに飽きた、いやになったと、むかしに変るお前がこのごろの素振りは、どうしたことでござるかのう。

かつら (あざ笑う)いや、昔とは変らぬ。 ちっとも変らぬ。 わたしは昔からこのようなことを好きではなかった。 父さまが鎌倉かまくらにおいでなされたら、わたしらもこうはあるまいものを、名聞みょうもんを好まれぬ職人気質かたぎとて、この伊豆いずの山家に隠れずみ、親につれて子供までもひなにそだち、しょうことなしに今の身の上じゃ。

序章-章なし
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修禅寺物語 - 情報

修禅寺物語

しゅぜんじものがたり

文字数 12,705文字

著者リスト:
著者岡本 綺堂

底本 日本の文学 77 名作集(一)

青空情報


底本:「日本の文学 77 名作集(一)」中央公論社
   1970(昭和45)年7月5日初版発行
初出:「文芸倶楽部」
   1911(明治44)年1月
入力:土屋隆
校正:小林繁雄
2006年4月30日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:修禅寺物語

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