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惜みなく愛は奪う

著者:有島武郎

おしみなくあいはうばう - ありしま たけお

文字数:78,699 底本発行年:1955
著者リスト:
著者有島 武郎
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序章-章なし

Sometimes with one I love, I fill myself with rage, for fear I effuse unreturn'd love;

But now I think there is no unreturn'd love―the pay is certain, one way or another;

(I loved a certain person ardently, and my love was not return'd;

Yet out of that, I have written these songs.)

[#右寄せ]-- Walt Whitman --

I exist as I am―that is enough;

If no other in the world be aware, I sit content,

And if each and all be aware, I sit content.

One world is aware, and by far the largest to me, and that is myself;

And whether I come to my own to-day, or in ten thousand or ten million years,

I can cheerfully take it now, or with equal cheerfulness I can wait.

[#右寄せ]-- Walt Whitman --

[#改ページ]

太初はじめことばがあったかおこないがあったか、私はそれを知らない。 しかし誰がそれを知っていよう、私はそれを知りたいとこいねがう。 そして誰がそれを知りたいと希わぬだろう。 けれども私はそれを考えたいとは思わない。 知る事と考える事との間には埋め得ない大きなみぞがある。 人はよくこの溝を無視して、考えることによって知ることに達しようとはしないだろうか。 私はその幻覚にはもう迷うまいと思う。 知ることは出来ない。 が、知ろうとは欲する。 人は生れると直ちにこの「不可能」と「欲求」との間にさいなまれる。 不可能であるという理由で私は欲求をなげうつことが出来ない。 それは私として何という我儘わがままであろう。 そして自分ながら何という可憐かれんさであろう。

太初の事は私の欲求をもってそれに私を結び付けることによって満足しよう。 私にはとても目あてがないが、知る日のきたらんことを欲求して満足しよう。

私がこの奇異な世界に生れ出たことについては、そしてこの世界の中にあって今日まで生命を続けて来たことについては、私はあきらかに知っている。 この認識を誇るべきにせよ、恥ずべきにせよ、私はごまかしておくことが出来ない。 私は私の生命を考えてばかりはいない。 確かに知っている。 哲学者が知っているように知っているのではないかも知れない。 又深い生活の冒険者が知っているように知っているのではないかも知れない。 然し私は知っている。 この私の所有を他のいかなるものもくらますことは出来ない。 又他のいかなる威力も私からそれを奪い取ることは出来ない。 これこそは私の存在が所有するただ一つの所有だ。

序章-章なし
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惜みなく愛は奪う - 情報

惜みなく愛は奪う

おしみなくあいはうばう

文字数 78,699文字

著者リスト:
著者有島 武郎

底本 惜みなく愛は奪う

青空情報


底本:「惜みなく愛は奪う」新潮文庫、新潮社
   1955(昭和30)年1月25日発行
   1968(昭和43)年12月20日25刷改版
   1974(昭和49)年8月30日34刷
初出:「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣
   1920(大正9)年6月
入力:村田拓哉
校正:土屋隆、染川隆俊
2003年7月28日作成
2012年8月8日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:惜みなく愛は奪う

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