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三つの宝

著者:芥川龍之介

みっつのたから - あくたがわ りゅうのすけ

文字数:7,093 底本発行年:1971
著者リスト:
著者芥川 竜之介
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森の中。 三人の盗人ぬすびとが宝を争っている。 宝とは一飛びに千里飛ぶ長靴ながぐつ、着れば姿の隠れるマントル、鉄でもまっぷたつに切れるけん――ただしいずれも見たところは、古道具らしい物ばかりである。

第一の盗人 そのマントルをこっちへよこせ。

第二の盗人 余計よけいな事を云うな。 その剣こそこっちへよこせ。 ――おや、おれの長靴を盗んだな。

第三の盗人 この長靴はおれの物じゃないか? 貴様こそおれの物を盗んだのだ。

第一の盗人 よしよし、ではこのマントルはおれが貰って置こう。

第二の盗人 こん畜生ちくしょう! 貴様なぞに渡してたまるものか。

第一の盗人 よくもおれをなぐったな。 ――おや、またおれの剣も盗んだな?

第三の盗人 何だ、このマントル泥坊め!

三人の者が大喧嘩おおげんかになる。 そこへ馬にまたがった王子が一人、森の中の路を通りかかる。

王子 おいおい、お前たちは何をしているのだ? (馬から下りる)

第一の盗人 何、こいつが悪いのです。 わたしの剣を盗んだ上、マントルさえよこせと云うものですから、――

第三の盗人 いえ、そいつが悪いのです。 マントルはわたしのを盗んだのです。

第二の盗人 いえ、こいつは二人とも大泥坊です。 これは皆わたしのものなのですから、――

第一の盗人 嘘をつけ!

第二の盗人 この大法螺吹おおぼらふきめ!

三人また喧嘩をしようとする。

王子 待て待て。 たかが古いマントルや、穴のあいた長靴ぐらい、誰がとってもいじゃないか?

第二の盗人 いえ、そうは行きません。 このマントルは着たと思うと、姿の隠れるマントルなのです。

第一の盗人 どんなまた鉄のかぶとでも、この剣で切れば切れるのです。

第三の盗人 この長靴もはきさえすれば、一飛びに千里飛べるのです。

王子 なるほど、そう云う宝なら、喧嘩をするのももっともな話だ。 が、それならば欲張よくばらずに、一つずつ分ければいじゃないか?

第二の盗人 そんな事をしてごらんなさい。 わたしの首はいつ何時なんどき、あの剣に切られるかわかりはしません。

第一の盗人 いえ、それよりも困るのは、あのマントルを着られれば、何を盗まれるか知れますまい。

第二の盗人 いえ、何を盗んだ所が、あの長靴をはかなければ、思うようには逃げられないわけです。

王子 それもなるほど一理窟ひとりくつだな。 では物は相談だが、わたしにみんな売ってくれないか? そうすれば心配も入らないはずだから。

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三つの宝 - 情報

三つの宝

みっつのたから

文字数 7,093文字

著者リスト:

底本 芥川龍之介全集5

親本 筑摩全集類聚版芥川龍之介全集

青空情報


底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
   1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年3月〜11月刊行
入力:j.utiyama
校正:多羅尾伴内
2004年1月5日作成
2010年11月4日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:三つの宝

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