東京人の堕落時代
著者:夢野久作
とうきょうじんのだらくじだい - すぎやま ほうえん
文字数:119,823 底本発行年:1992
はしがき
この稿は昨年末まで書き続けた「街頭より見たる新東京の裏面」の別稿である。
記者は特にこの稿を作るためには、単に街頭観にのみ依らず、この方面に責任を持っている医師、教育家、司法官、興行者、その他多数の人々に御迷惑をかけて記事の正確を期した。
そのような人々の意見とても、記者が実地に調査し且つ共鳴し得たところだけを記者の意見として責任を負うて書いたのであるから、一々氏名を挙げる事は遠慮した。
本人の御迷惑になる意味もあるし、さもなくとも不公平になる点が多いから一様に差し控えた訳である。
ここに謹んでお詫びをすると同時にお礼を述べておく。
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各方面の徴候
和漢洋の堕落風俗
東京人は今や甚だしい堕落時代を作っている。
西洋風、支那風、日本風のあらゆる意味で堕落腐敗し
その影響は日本全国に行き渡りつつある。
現在の日本人は「東京」を
この現象がいつ迄続くか。
浜口蔵相の節約主義がこれをどの
この疑問が解決される時機は手近く見たところで今年の三四月であろう。
毎年の
しかし今の通りの
いずれにしてもこの春が問題である。 この記事がそうした人気や風俗の移りかわりを見分ける標準となったら幸である。
更に地方の特色の美しさや尊さを忘れて、東京を神様のように思っている人々のために、又はその子弟を東京に遣っている人々のために参考となったら、記者の苦心はどれ位酬いられるであろうか。
警視庁の映画検閲官曰 く
東京人の堕落時代を描き出す前に、取り敢ず読者の記憶を呼び起しておかねばならぬ事がある。
昨冬二十六日付の九州日報夕刊に大略左のような記事が載っていた。
× × ×
大正十三年の一月から十一月まで警視庁で検閲した映画の数が一万八千巻、千六百
次に切ったフイルムを国別にして見ると、
検閲巻数 同上呎数 切除呎数
日本物 七、九五四 六、九一七、三二一 三六、四三四
米国物 七、六九六 六、八一〇、五六三 一九、三三六
欧州物 九一三 八三二、七四八 三、七〇〇