いなか、の、じけん
著者:夢野久作
いなか、の、じけん - ゆめの きゅうさく
文字数:39,141 底本発行年:1933
大きな手がかり
村長さんの処の米倉から、白米を四
あくる朝早く駐在の
博奕打ちは盗んだ米を町へ売りに行く途中、久し振りに
腰縄を打たれたまま車を引っぱってゆく男の、うしろ姿を見送った人々は、ため息して云った。
「わるい事は出来んなあ」
按摩 の昼火事
五十ばかりになって一人
後家さんは、めんくらった。
「按摩さんが火事火事」
と大声をあげて村中を走りまわったので、
大勢に取り捲かれて、巡査の前の地べたに坐った按摩は、
「まったくの出来心で御座います。 声をかけてみたところが留守だとわかりましたので……」
「それからどうしたか」
と巡査は鉛筆を
「それで台所から忍び込みますと、ラムプを探り当てましたので、その石油を撒いて火をつけましたが、思いがけなく、うしろの方からも火が燃え出して熱くなりましたので、うろたえまして……雨戸は閉まっておりますし、出口の方角はわからず……」
きいていた連中がゲラゲラ笑い出したので、按摩は不平らしく白い眼を
「よしよし。
わかっとるわかっとる。
ところで、どういうわけで火を
「ヘエ。 それはあの後家めが」
と按摩は又、そこいらを睨みまわしつつ、土の上で一膝進めた。
「あの後家めが、私に肩を
「イイエ、違います。 まるでウラハラです……」
と群集のうしろから後家さんが叫び出した。
みんなドッと吹き出した。 巡査も思わず吹き出した。 しまいには按摩までが一緒に腹を抱えた。
その時にやっと後家さんは、云い損ないに気が付いたらしく、
夫婦の虚空蔵
「あの夫婦は虚空蔵さまの生れがわり……」
大きな手がかり
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いなか、の、じけん - 情報
青空情報
底本:「夢野久作全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年9月24日第1刷発行
底本の親本:「冗談に殺す」日本小説文庫、春陽堂
1933(昭和8)年5月15日発行
初出:「探偵趣味」「猟奇」
1927(昭和2)年7月〜1930(昭和5)年1月
※1927(昭和2)年7月号の「探偵趣味」から、1930(昭和5)年1月号の「猟奇」にかけて、両誌に断続的に発表された。
入力:柴田卓治
校正:江村秀之
2000年1月13日公開
2012年3月13日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:いなか、の、じけん