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「三つの宝」序に代へて

著者:佐藤春夫

みっつのたからじょにかえて - さとう はるお

文字数:706 底本発行年:1928
著者リスト:
著者:佐藤 春夫
底本: 三つの寶
親本: 三つの寶
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序章-章なし

他界へのハガキ

芥川君(あくたがはくん)

君(きみ)の立派(りつぱ)な書物(しよもつ)が出來上(できあが)る。 君(きみ)はこの本(ほん)の出(で)るのを樂(たの)しみにしてゐたといふではないか。 君(きみ)はなぜ、せめては、この本(ほん)の出(で)るまで待(ま)つてはゐなかつたのだ。 さうして又(また)なぜ、ここへ君自身(きみじしん)のペンで序文(じよぶん)を書(か)かなかつたのだ。 君(きみ)が自分(じぶん)で書(か)かないばかりに、僕(ぼく)にこんな氣(き)の利(き)かないことを書(か)かれて了(しま)ふぢやないか。 だが、僕(ぼく)だつて困(こま)るのだよ。 君(きみ)の遺族(いぞく)や小穴君(をあなくん)などがそれを求(もと)めるけれど、君(きみ)の本(ほん)を飾(かざ)れるやうなことが僕(ぼく)に書(か)けるものか。 でも僕(ぼく)はこの本(ほん)のためにたつた一(ひと)つだけは手柄(てがら)をしたよ。 それはね、これの校了(かうれう)の校正刷(かうせいずり)を讀(よ)んでゐて誤植(ごしよく)を一(ひと)つ發見(はつけん)して直(なほ)して置(お)いた事(こと)だ。 尤(もつと)もその手柄(てがら)と、こんなことを卷頭(くわんとう)に書(か)いて君(きみ)の美(うつく)しい本(ほん)をきたなくする罪(つみ)とでは、差引(さしひき)にならないかも知(し)れない。 口惜(くや)しかつたら出(で)て來(き)て不足(ふそく)を云(い)ひたまへ。 それともこの文章(ぶんしやう)を僕(ぼく)は今夜(こんや)枕(まくら)もとへ置(お)いて置(お)くから、これで惡(わる)かつたら、どう書(か)いたがいいか、來(き)て一(ひと)つそれを僕(ぼく)に教(をし)へてくれたまへ。 ※(濁点付き片仮名ヰ、1-7-83)リヤム・ブレイクの兄弟(きやうだい)が※(濁点付き片仮名ヰ、1-7-83)リヤムに對(たい)してしたやうに。 君(きみ)はもう我々(われわれ)には用(よう)はないかも知(し)れないけれど、僕(ぼく)は一(いつ)ぺん君(きみ)に逢(あ)ひたいと思(おも)つてゐる。 逢(あ)つて話(はな)したい。 でも、僕(ぼく)の方(はう)からはさう手輕(てが)るには――君(きみ)がやつたやうに思(おも)ひ切(き)つては君(きみ)のところへ出(で)かけられない。 だから君(きみ)から一度(ど)來(き)てもらひ度(た)いと思(おも)ふ――夢(ゆめ)にでも現(うつつ)にでも。 君(きみ)の嫌(きらひ)だつた犬(いぬ)は寢室(しんしつ)には入(い)れないで置(お)くから。 犬(いぬ)と言(い)へば君(きみ)は、犬好(いぬず)きの坊(ぼつ)ちやんの名前(なまへ)に僕(ぼく)の名(な)を使(つか)つたね。 それを君(きみ)が書(か)きながら一瞬間(しゆんかん)、君(きみ)が僕(ぼく)のことを思(おも)つてくれた記録(きろく)があるやうで、僕(ぼく)にはそれがへんにうれしい。 ハガキだからけふはこれだけ。 そのうち君(きみ)に宛(あ)ててもつと長(なが)く書(か)かうよ。

下界では昭和二年十月十日の夜佐藤春夫

序章-章なし
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「三つの宝」序に代へて - 情報

「三つの宝」序に代へて

みっつのたからじょにかえて

文字数 706文字

著者リスト:
著者:佐藤 春夫

底本 三つの寶

親本 三つの寶

青空情報


底本:「三つの寶」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年1月
底本の親本:「三つの寶」改造社
   1928(昭和3)年6月20日発行
※底本における表題「序に代へて」に、底本名を補い、作品名を「「三つの寶」序に代へて」としました。
入力:かな とよみ
校正:友理
2021年3月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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青空文庫:「三つの宝」序に代へて

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