レオナルド・ダ・ヴインチの手記 ―― Leonardo da Vinci ――
著者:レオナルド・ダ・ヴインチ Leonardo da Vinci
レオナルド・ダ・ヴィンチのしゅき
文字数:777 底本発行年:1935
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おお、神よ。 爾は、一切の善きものを、勞力の價を以て、我等に賣り給へり。
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古人を模倣する事は、今人を模倣する事より、賞贊に値する。
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「生」に於て、「美」は死滅する。 が、「藝術」に於ては、死滅しない。
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感情の至上の力が存する所に、殉教者中の最大なる殉教者がある。
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我等の故郷に歸らんとする、我等の往時の状態に還らんとする、希望と欲望とを見よ。
如何にそれが、光に於ける
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善く費された日が、幸福な眠を齎すやうに、善く用ひられた生は、幸福な死を將來する。
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自分が、如何に生く可きかを學んでゐたと思つてゐる間に、自分は、如何に死す可きかを學んでゐたのである。
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鐵は、用ひない時に、
る。
溜り水は、濁つて、寒天には、氷結する。
懈怠が心の活力を奪ふ事も亦、これに比しい。
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おお「時」よ。 一切を滅却する爾よ。 おお嫉みふかき時代よ。 爾は、年の鋭き齒牙を以て、徐なる死に、一切を破壞し、一切を併呑する。 ヘレンは、老年が面上に刻した皺を、鏡中の影に認めた時、泣いて、何故に彼女が二度までも誘拐し去られたかを怪んだ。
おお「時」よ。 一切を滅却する爾よ。 おお一切を滅却する嫉みふかき時代よ。
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木は、木を滅する火の燃料となる。
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レオナルド・ダ・ヴインチの手記 - 情報
レオナルド・ダ・ヴインチの手記 ―― Leonardo da Vinci ――
レオナルド・ダ・ヴィンチのしゅき ――レオナルド ダ ヴィンチ――
文字数 777文字
底本 芥川龍之介全集 第十二卷
親本 芥川竜之介全集 第9巻
青空情報
底本:「芥川龍之介全集 第十二卷」岩波書店
1978(昭和53)年7月24日発行
底本の親本:「芥川竜之介全集 第9巻」
1935(昭和10)年
入力:かな とよみ
校正:フクポー
2019年3月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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青空文庫:レオナルド・ダ・ヴインチの手記