愛の詩集 02 愛の詩集のはじめに
著者:北原白秋
あいのししゅう - きたはら はくしゅう
文字数:7,071 底本発行年:1918
室生君。
涙を流して私は今君の双手を捉へる。 さうして強く強くうち振る。 君は正しい。 君の此詩集は立派なものだ。 人間の魂で書かれた人間の詩だ。 さうしてここに書かれた君の言葉は尽く人間の滋養だ。 君の甦りは勇ましい。 さうして純一だ。 魂は無垢だ、透明だ。 おお、君は安心して君自身を世に示したがよい。 さうして更に世の賞讃と愛慕とを受けたがよい。 おお、上天の祝福よ、永久に我友の上にあれ。
愛の詩集一巻。
之は何といふ優しさだ、素直さだ、気高さ、清らかさだ。
さうして何といふ悲しさ、愛らしさ、いぢらしさだ。
おお、ここにはあらゆる人間の愛がある。
寂しい愛、孤独の愛、真実の愛、幸福な安らかな愛、正しい愛、虐たげられ、
何等の無理もない、その言葉は何等の飾りもなく、しぜんと魂の底から、一人の人間の静かな息づかひその儘に溢れ出てゐる。
誰にもわかり易い言葉でわかり易く
誰が読んでも、誰に読んできかせても、それは深い滋味のある言葉だ。
誰しもが温められ、かき擁かれ、慰められ、力づけられる言葉だ。
淫らな、何ひとつ不純な声が無い。
これは水だ、いい茶だ、魂のパンだ。
さうして日の光だ、雨の音だ、
何といふ力づよさだ。
又、何といふ
これは水だ、いい茶だ、魂のパンだ、人間の滋養だ。
*
室生君。