俳句の作りよう
著者:高浜虚子
はいくのつくりよう - たかはま きょし
文字数:45,520 底本発行年:1952
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かつてある人の言葉に「虚子の俳話は俗談平話のうちに
大徳智識の法話に「仮名法語」なるものがある。 婦女老幼にも判るようにと仏の大道を仮名交じりの俗談平話に説くのである。 読者この書をもって俳諧の仮名法語として見られよ。
(ホトトギス大正二年十一月号以下掲載・虚子講述)
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一 まず十七字を並べること
俳句を作ってみたいという考えがありながら、さてどういうふうにして手をつけ始めたらいいのか判らぬためについにその機会無しに過ぎる人がよほどあるようであります。 私はそういうことを話す人にはいつも、
何でもいいから十七字を並べてごらんなさい。
とお答えするのであります。
中にはまた、俳句を作るがために参考書も二、三冊読んでみたし、句集も一、二冊読んでみたが、どうもまだどうして作ったらいいのか判らぬという人があります。 そういう人には私は、
どうでもいいからとにかく十七字を並べてごらんなさい。
とおすすめするのであります。
何でもかまわん十七字を二、三句並べてみて、その添削を他に請うということが、俳句を作る第一歩であります。
謡を習うのでも三味線を弾くのでもまず皮切をするということがその芸術に足を踏み入れる第一歩でありますが、実際はこの皮切がおっくうなために、句作の機会を
とにかく十七字を並べてみるに限ります。
けれども十七字を並べるというだけでは、漠然として
「や」「かな」「けり」のうち一つを使ってごらんなさい、そうして左に一例として列記する四季のもののうち、どれか一つを詠んでごらんなさい。
元日 門松 萬歳 カルタ 松の内 紅梅 春雨 彼岸 春の山 猫の恋
こう言ってもまだ諸君は、どんなふうに十七字にするのかちょっと見当がつかないのに困るかもしれません。 そこで私は無造作にこれを十七字にするお手本をお見せしましょう。
元日やこの秋にある
これは大正三年の元日の心持で、三年の秋には大正天皇の御即位式がある、その
門松を
これはよく私の家で経験することであります。 何事も遅れがちの私の家では、正月の設けというものも、とかく大三十日の晩ぐらいにするのであります。
萬歳の鼓もうたで帰りけり
萬歳は門にはいって来るといきなり鼓を打つのが癖でありますが、それが鼓を打たずに帰って行ったという、ある特別な事実を句にしたのであります。
私の家ではかつて二匹も犬がいてよく
下の句を読んで取る国のカルタかな
私の故郷の松山では下の句を読んで下の句を取ります。 国というのは故国の意味であります。
松の内をはや舟に在りて浮びけり