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まざあ・ぐうす

著者:著者不明

まざあ・ぐうす - さくしゃふしょう

文字数:23,258 底本発行年:1930
著者リスト:
著者作者不詳
翻訳者北原 白秋
親本: 北原白秋全集
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序章-章なし

[#ページの左右中央]

日本の子供たちに

[#改ページ]

はしがき

お母さんがちょうのマザア・グウスはきれいな青い空の上に住んでいて、大きな美しいがちょうの背中にのってその空をけったり、月の世界の人たちのつい近くをひょうひょうと雪のようにあかるくとんでいるのだそうです。 マザア・グウスのおばあさんがそのがちょうの白い羽根をむしると、その羽根がやはり雪のようにひらひらと、地の上にうてきて、おちる、すぐにその一つ一つが白い紙になって、その紙には子供たちのなによりよろこぶ子供のお唄が書いてあるので、イギリスの子供たちのお母さんがたはこれを子供たちにいつも読んできかしてくだすったのだそうです。 いまでもそうだろうと思います。 それでそのお話をお母さんからうかがったり、そのお唄を夢のようにうたっていただいたりするイギリスの子供たちは、どんなにあのきんの卵をうむがちょうや、マザア・グウスのおばあさんをしたわしく思うかわかりません。

ですが、ほんとうをいえば、そのマザア・グウスはやはりわたくしたちと同じこの世界に住んでいた人でした。 べつにお月さまのお隣の空にいた人ではありません。 子供がすきな、そうして、ちょうどあのがちょうがきんの卵でもうむように、ぼっとりぼっとりとこの御本の中にあるような美しい子供のお唄を子供たちの間におとしてゆかれたのでした。 ありがたいお母さんがちょうではありませんか。

そのグウスというおばあさんはいまから二百年ばかり前に、その当時英国の植民地であった北アメリカにうまれたかたでした。 そのおばあさんに一人のちっちゃなまご息子むすこがありました。 おばあさんはそのまご息子がかわゆくてならなかったものですから、その子をよろこばせるためにその子のよろこぶような、そうしてその子の罪のない美しいお夢をまだまだかわいいきれいな深みのあるものにしてやりたいのでした。 それでいろいろなおもしろいお唄をしぜんと自分でつくりだすようになりました。 やっぱりその子がかわいかったのですね。

それも初めはただなんということなしに節をつけておはなししたり、うたったりしたものでしょうが、そうしたものはどうしても忘れやすいものですから、また覚え書きに書きとめておくようになりました。 そうなるとまた、そうして書きとめておいたのが一つふえ二つふえしていつかしら一冊の御本にまとまるようになったのでしょう。

そのおばあさんの養子にトオマス・フリイトという人がありました。 この人は印刷屋さんでした。 で、そのお母さんが自分の息子のためにうたってくだすった、そうしたありがたいお唄をって、自分の息子ばかりでなく、ほかのたくさんの子供たちをよろこばしてやりたいと思ったのでした。 それでこのマザア・グウスの童謡の御本がはじめて刷られて、ひろく世間によまれるようになりました。 それは西洋暦の千七百十九年という年で、時のイギリスの王さまはジョウジ一世ともうされるおかたでした。

で、このマザア・グウスの童謡はずいぶんと古いものです。 古いものですけれど、いつまでたっても新しい。 ほんとにいいものはいつまでたっても昔のままに新しいものです。 考えてみてもその御本がでてから、イギリスの子供たちはどんなにしあわせになったかわかりません。 その子供たちがおとなになり、またつぎからつぎにかわいい子供たちがうまれてきて、またつぎからつぎにこのお母さんがちょうのねんねこ唄をうたって大きくなってゆくのです。 それにこの御本がでてからしあわせにされたのはそのイギリスの子供ばかりではありません。 イギリスのことばをつかっている国々の子供はむろんのことですが、世界じゅうのいろいろな国のことばに訳されていますので、そうした国々の子供たちもみんなしあわせにされているはずです。 それにいろいろ作曲されて、ずいぶんひろくうたわれているようです。 ですから、赤いくちばしと赤い水かきとをもったがちょうのおばあさんがおいすに腰かけて、おなじような赤いちっちゃなくちばしと赤いちっちゃな水かきとをもったちっちゃながちょうをおひざにのっけて、赤い御本をひらいているのついた表紙のや、三角帽さんかくぼうのリボンにペンをさしたおばあさんがテエブルの前に腰をかけて、なにか書いていると、そのそばから大きながちょうがくちばしをあけて、針の頭のようにをちっちゃくしてのぞきこんでいる画のや、がちょうとおばあさんが空をけているのや、緑色みどりいろ牧草まきぐさの中に金の卵をおとしている白いめんどりのがちょうのや、いろんな本がでています。

日本ではこのわたしのが初めてです。 日本の子供たちのために、わたしはこのお母さんがちょうを日本の空の上にきてもらいました。 そうして空からひらひらとその唄のついたがちょうの羽根をちらしてもらったのでした。 その羽根にかいてある字はイギリスの字ですから、わたしは桃色のお月さまの光でひとつひとつすかしてみて、それを日本のことばになおして、あなたがた、日本のかわいい子供たちにうたってあげるのです。 そしてみんなうたえるようにうたいながら書きなおしたのですからみんなうたえます。 うたってごらんなさい。

序章-章なし
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まざあ・ぐうす - 情報

まざあ・ぐうす

まざあ・ぐうす

文字数 23,258文字

著者リスト:
著者作者不詳
翻訳者北原 白秋

底本 まざあ・ぐうす

親本 北原白秋全集

青空情報


底本:「まざあ・ぐうす」角川文庫、角川書店
   1976(昭和51)年5月30日初版発行
   1995(平成7)年1月30日24版発行
底本の親本:アルス版全集
   1930(昭和5)年
※「*」は注釈記号です。底本では、直前の文字の右横に、ルビのように付いています。
入力:藤本篤子
校正:八巻美恵
1998年1月21日公開
2010年11月2日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:まざあ・ぐうす

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