金の輪
著者:小川未明
きんのわ - おがわ みめい
文字数:1,668 底本発行年:1951
一
太郎は長いあいだ、
だから、日のあたっているときには、外へ出てもさしつかえなかったけれど、晩がたになると早く家へはいるように、おかあさんからいいきかされていました。
まだ、さくらの花も、ももの花も咲くには早うございましたけれど、うめだけが、かきねのきわに咲いていました。
そして、雪もたいてい消えてしまって、ただ大きな寺のうらや、
太郎は、外に出ましたけれど、
ひとりしょんぼりとして、太郎は家のまえに立っていましたが、畑には去年とりのこした
すると、よい金の輪のふれあう音がして、ちょうどすずを鳴らすようにきこえてきました。
かなたを見ますと、往来の上をひとりの少年が、輪をまわしながら、走ってきました。
そして、その輪は
この知らぬ少年は、その往来をすぎるときに、ちょっと太郎の方をむいて
二
輪をまわして行く少年のすがたは、やがて白い道の方に消えてしまいました。 けれど、太郎はいつまでも立って、そのゆくえを見まもっていました。
太郎は、「だれだろう。」 と、その少年のことを考えました。 いつこの村へこしてきたのだろう? それとも遠い町の方から、遊びにきたのだろうかと思いました。
あくる日の午後、太郎はまた畑の中に出てみました。
すると、ちょうどきのうとおなじ
太郎は畑の中に立って、しょんぼりとして、少年のゆくえを見おくりました。 いつしかそのすがたは、白い道のかなたに消えてしまったのです。 けれど、いつまでもその少年の白い顔と、微笑とが太郎の目にのこっていて、とれませんでした。
「いったい、だれだろう。」 と、太郎はふしぎに思えてなりませんでした。 今まで一ども見たことがない少年だけれど、なんとなくいちばんしたしい友だちのような気がしてならなかったのです。
あしたばかりは、ものをいってお友だちになろうと、いろいろ空想をえがきました。 やがて、西の空が赤くなって、日暮れがたになりましたから、太郎は家の中にはいりました。