日本の伝説
著者:柳田國男
にほんのでんせつ - やなぎた くにお
文字数:104,461 底本発行年:1977
再び世に送る言葉
日本は伝説の驚くほど多い国であります。
以前はそれをよく覚えていて、話して聴かせようとする人がどの土地にも、五人も十人も有りました。
ただ近頃は他に色々の新に考えなければならぬことが始まって、よろこんで
日本に伝説の数が
最近に私は「伝説」という小さな本を又一つ書きました。
これは主として理論の方面から、日本に伝説の栄え成長した路筋を考えて見ようとしたものですが、
昭和十五年十一月
[#改ページ]
はしがき
伝説と昔話とはどう違うか。
それに答えるならば、昔話は動物の如く、伝説は植物のようなものであります。
昔話は方々を飛びあるくから、どこに行っても同じ姿を見かけることが出来ますが、伝説はある一つの土地に根を生やしていて、そうして常に成長して行くのであります。
雀や
諸君の村の広場や学校の庭が、今は空地になって、なんの伝説の花も咲いていないということを、悲しむことは不必要であります。 もとはそこにも、さまざまのいい伝えが、茂り栄えていたことがありました。 そうして同じ日本の一つの島の中であるからには、形は少しずつ違っても、やっぱりこれと同じ種類の植物しか、生えていなかったこともたしかであります。 私はその標本のただ二つ三つを、集めて来て諸君に見せるのであります。
植物にはそれを養うて大きく強くする力が、隠れてこの国の土と水と、日の光との中にあるのであります。
歴史はちょうどこれを利用して、栽培する農業のようなものです。
歴史の耕地が整頓して行けば、伝説の野山の狭くなるのも当り前であります。
しかも日本の家の数は千五百万、家々の昔は三千年もあって、まだその片端のほんの少しだけが、歴史にひらかれているのであります。
それ故に春は野に行き、
しかし、小さな人たちは、ただ面白いお話のところだけを読んでお置きになったらいいでしょう。
再び世に送る言葉
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日本の伝説 - 情報
青空情報
底本:「日本の伝説」新潮文庫、新潮社
1977(昭和52)年1月15日発行
2007(平成19)年9月10日43刷
初出:「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス
1929(昭和4)年5月
※「伝説分布表」のページ数及び丸括弧内の編集部による現在の表示は省略しました。
※初出時の表題は「日本神話伝説集」です。
※「堺」と「境」、「涌」と「湧」の混在は、底本通りです。
入力:Nana ohbe
校正:川山隆
2013年4月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:日本の伝説