抒情小曲集 04 抒情小曲集
著者:室生犀星
じょじょうしょうきょくしゅう - むろう さいせい
文字数:13,968 底本発行年:1918
序曲
芽がつつ立つ
ナイフのやうな芽が
たつた一本
すつきりと蒼空につつ立つ
抒情詩の精神には音楽が有つ微妙な恍惚と情熱とがこもつてゐて人心に囁く。 よい音楽をきいたあとの何者にも経験されない優和と嘆賞との瞬間。 ただちに自己を善良なる人間の特質に導くところの愛。 誰もみな善い美しいものを見たときに自分もまた善くならなければならないと考へる貴重な反省。 最も秀れた精神に根ざしたものは人心の内奥から涙を誘ひ洗ひ清めるのである。
いとけなかりし日のおもひでに
室生君。
時は過ぎた。
『抒情小曲集』出版の通知を受取つて、私は、今更ながら過ぎ去つた日の若い君の姿が思ひ出される。
初めて会つた頃の君は寂しさうであつた、苦しさうであつた、悲しさうであつた。
初めて君の詩に接した時、私はその声の
改めて云ふ。 今度の小曲集こそ私の待ちに待つたものであつた。 私は真に君の歓びを自分の歓びとして一日も早くその上梓の日を鶴首して待つ。
願くばわが室生犀星に再び光栄あれ。
八月十四日小田原にて
北原白秋
抒情詩信条
(1) 汝の瞳孔いま微かなる運動を為す。 空現はれたり。 瞳孔全く開きつくしたる時汝は甚しく羽ばたきを為す。
(2) 汝は多くの人間の期待せるときに生れたることを信ず。 願くば汝の上に真摯なるものの数個の批評をもつて汝の精神の糧をおくられむことを祈れ。
(3) 過ぎし日の愛人をおもふこと真に雪の下の若草を思ふに似たりとつげよ。
(4) 詩はわれにとつて永遠の宗教なり。
(5) われ登らんとするとき崖より血しほ流れたり。
抒情詩信条
序曲
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抒情小曲集 - 情報
青空情報
底本:「抒情小曲集・愛の詩集」講談社文芸文庫、講談社
1995(平成7)年11月10日第1刷発行
底本の親本:「抒情小曲集」感情詩社
1918(大正7)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※冒頭の序にあたる部分の構成は下記のようになっています。「( )」の部分は底本では明確な見出しとしては扱われていませんので、見出し注記をしていません。
序曲
(「抒情詩の精神には……」)
(扉銘)(「いとけなかりし日……」)
(序)北原白秋
抒情詩信条
(序)萩原朔太郎
(扉銘)ルイ・ベルトラン
(序)田辺孝次
(序詩)(「雪のしたより……」)
(「自分は五月ころ……」)
自序
『抒情小曲集』覚書
小曲集箴言
入力:田村和義
校正:高柳典子
2012年12月11日作成
2018年3月23日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:抒情小曲集