あやかしの鼓
著者:夢野久作
あやかしのつづみ - ゆめの きゅうさく
文字数:38,165 底本発行年:1998
私は嬉しい。
「あやかしの
「あやかし」という名前はこの鼓の胴が世の常の桜や
この鼓はまったく鼓の中の妖怪である。 皮も胴もかなり新らしいもののように見えて実は百年ばかり前に出来たものらしいが、これをしかけて打ってみると、ほかの鼓の、あのポンポンという明るい音とはまるで違った、陰気な、余韻のない……ポ……ポ……ポ……という音を立てる。
この音は
これは今の世の中では信ぜられぬことであろう。
それ等の呪われた人々の中で、最近に問題になった三人の変死の模様を取り調べた人々が、その犯人を私――
私はお願いする。
私が死んだ
楽器というものの音が、どんなに深く人の心を捉えるものであるかということを、本当に理解しておられる人は私の言葉を信じて下さるであろう。
そう思うと私は胸が一パイになる。
今から百年ばかり前のこと京都に音丸
この人はもとさる尊とい身分の人の
久能の出入り先で
綾姫は久能にも色よい返事をしたのであった。
しかしそれとてもほんの一時のなぐさみであったらしく、間もなく同じ堂上方で、これも小鼓の上手ときこえた
これを聞いた久能は何とも云わなかった。
そうしてお
これが
鶴原家に不吉なことが起ったのもそれからのことであった。
綾姫は鶴原家に嫁づいて後その鼓を取り出して打って見ると、尋常と違った音色が出たので皆驚いた。 それは恐ろしく陰気な、けれども静かな美くしい音であった。
綾姫はその後何と思ったか、
しかしその鼓を作った久能も無事では済まなかった。
久能はあとでこの鼓をさし上げたことを心から苦にして、或る時鶴原卿の邸内へ忍び入ってこの鼓を取り返そうとすると、
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あやかしの鼓 - 情報
青空情報
底本:「夢野久作怪奇幻想傑作選 あやかしの鼓」角川ホラー文庫、角川書店
1998(平成10)年4月10日初版発行
初出:「新青年」博文館
1926(大正15)年10月
※このファイルは、ディスクマガジン『電脳倶楽部』に収録されたものをもとにしています。
入力:上村光治
校正:浜野智
1998年11月10日公開
2019年4月27日修正
青空文庫作成ファイル:
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青空文庫:あやかしの鼓