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海が呼んだ話

著者:小川未明

うみがよんだはなし - おがわ みめい

文字数:3,680 底本発行年:1940
著者リスト:
著者:小川 未明
親本: 夜の進軍喇叭
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一

自転車屋(じてんしゃや)のおじさんが、こんど田舎(いなか)へ帰(かえ)ることになりました。 清吉(せいきち)や、正二(しょうじ)にとって、親(した)しみの深(ふか)いおじさんだったのです。 三輪車(りんしゃ)の修繕(しゅうぜん)もしてもらえば、ゴムまりのパンクしたのを直(なお)してもくれました。 また、その家(いえ)の勇(ゆう)ちゃんとはお友(とも)だちでもありました。 おじさんは、犬(いぬ)や、ねこが好(す)きでした。 いい人(ひと)というものは、みんな生(い)き物(もの)をかわいがるとみえます。

勇(ゆう)ちゃんは、こんど田舎(いなか)の小学校(しょうがっこう)へ上(あ)がるといいました。

「勇(ゆう)ちゃん、田舎(いなか)へいくのうれしい?」

「お友(とも)だちがなくて、さびしいや。 僕(ぼく)も、お母(かあ)さんも、いきたくないんだよ。」

「どうして、田舎(いなか)へいくの。」

「おじいさんが、だんだん年(とし)をとって、もう一人(ひとり)で田舎(いなか)におくことができないからさ。 おじいさんは、東京(とうきょう)へくるのは、いやだというのだ。 そして、昔(むかし)から住(す)んでいるところにいたいというので、しかたなくお父(とう)さんが、帰(かえ)ることにしたのだよ。」

勇(ゆう)ちゃんの話(はなし)を聞(き)いて、清吉(せいきち)も、正二(しょうじ)も、勇(ゆう)ちゃんのお父(とう)さんを親孝行(おやこうこう)だと思(おも)いました。

「この家(いえ)へは、親類(しんるい)の叔父(おじ)さんが入(はい)るのだから、僕(ぼく)、また遊(あそ)びにくるよ。」 と、勇(ゆう)ちゃんはいいました。

「叔父(おじ)さんのお家(うち)は、どこにあるの。」 と、正二(しょうじ)が、聞(き)きました。

「叔父(おじ)さんの家(いえ)は、ここから二十里(り)もあちらの浜(はま)なんだ。 たいだの、さばだの網(あみ)にかかってくるって、僕(ぼく)のお父(とう)さんが、いった。」

「その叔父(おじ)さんは、また自転車屋(じてんしゃや)をやるの。」 と、清吉(せいきち)がたずねました。

「さあ、それはわからないな。」

勇(ゆう)ちゃんの話(はな)しぶりでも、遠(とお)い浜(はま)から、町(まち)へ出(で)てくるには、なにか子細(しさい)があるように感(かん)じられたのです。 しかし、そのわけは、わかりませんでした。 ただ、にぎやかな町(まち)から、さびしい田舎(いなか)へ帰(かえ)るものと、また、ひろびろとした海(うみ)の生活(せいかつ)から、せまくるしい町(まち)へやってこなければならぬものと、人間(にんげん)の一生(しょう)の暮(く)らしには、いろいろの変化(へんか)があるものだと、子供(こども)たちにも、感(かん)ぜられたのでした。

勇(ゆう)ちゃんの家(いえ)が、田舎(いなか)へ引(ひ)っ越(こ)してしまってから、しばらく、自転車屋(じてんしゃや)のあとは、空(あ)き家(や)になっていました。

「いつ、勇(ゆう)ちゃんの叔父(おじ)さんは、引(ひ)っ越(こ)してくるんだろうな。」 と、正二(しょうじ)も、清吉(せいきち)も、閉(し)まっている家(いえ)の前(まえ)を通(とお)るたびに、振(ふ)り向(む)きながら思(おも)いました。 そのうちに大工(だいく)が入(はい)って、店(みせ)の模様(もよう)を変(か)えたり、こわれたところを直(なお)したりしていましたが、それができあがると、いつのまにかこざっぱりとした、乾物屋(かんぶつや)になりました。 そして、チンドン屋(や)などがまわって、開店(かいてん)の披露(ひろう)をしたのであります。

海産物(かいさんぶつ)のほかに、お茶(ちゃ)や卵(たまご)を売(う)っていました。 おじさんというのは、まだ若(わか)く、やっと三十をこしたくらいに見(み)えました。 それにひとり者(もの)で、いつも店(みせ)にさびしそうにすわっていました。

「おじさん。」 といって、清吉(せいきち)や、正二(しょうじ)や、ほかの子供(こども)たちが、じきに遊(あそ)びにいくようになったのも、一つは、勇(ゆう)ちゃんの叔父(おじ)さんだったというので、まったく他人(たにん)のような気(き)がしなかったからでもありましょう。

なんでも珍(めずら)しいことを知(し)りたがる子供(こども)たちは、この店(みせ)へやってくると、

「おじさん、海(うみ)の話(はなし)をしてよ。」

一

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海が呼んだ話 - 情報

海が呼んだ話

うみがよんだはなし

文字数 3,680文字

著者リスト:
著者:小川 未明

底本 定本小川未明童話全集 12

親本 夜の進軍喇叭

青空情報


底本:「定本小川未明童話全集 12」講談社
   1977(昭和52)年10月10日第1刷発行
   1982(昭和57)年9月10日第5刷発行
底本の親本:「夜の進軍喇叭」アルス
   1940(昭和15)年4月
初出:「日本の子供」
   1939(昭和14)年7月
※表題は底本では、「海(うみ)が呼(よ)んだ話(はなし)」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:酒井裕二
2016年6月10日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:海が呼んだ話

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