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いちょうの実

著者:宮沢賢治

いちょうのみ - みやざわ けんじ

文字数:2,629 底本発行年:1985
著者リスト:
著者宮沢 賢治
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序章-章なし

そらのてっぺんなんかつめたくてつめたくてまるでカチカチのやきをかけたはがねです。

そしてほしがいっぱいです。 けれどもひがしそらはもうやさしいききょうのはなびらのようにあやしい底光そこびかりをはじめました。

そのがたそらした、ひるのとりでもゆかないたかいところをするどいしものかけらがかぜながされてサラサラサラサラみなみのほうへとんでゆきました。

じつにそのかすかなおとおかうえの一ぽんいちょうのこえるくらいすみきったがたです。

いちょうのはみんないちどにをさましました。 そしてドキッとしたのです。 きょうこそはたしかにたびだちのでした。 みんなもまえからそうおもっていましたし、きのうの夕方ゆうがたやってきた二わのカラスもそういいました。

「ぼくなんかちるとちゅうでがまわらないだろうか。」 一つのがいいました。

「よくをつぶっていけばいいさ。」 も一つがこたえました。

「そうだ。 わすれていた。 ぼくすいとうにみずをつめておくんだった。」

「ぼくはね、すいとうのほかにはっかすい用意よういしたよ。 すこしやろうか。 たびてあんまり心持こころもちのわるいときはちょっとむといいっておっかさんがいったぜ。」

「なぜおっかさんはぼくへはくれないんだろう。」

「だから、ぼくあげるよ。 おっかさんをわるくおもっちゃすまないよ。」

そうです。 このいちょうのはおかあさんでした。

ことしは千にん黄金色きんいろどもがまれたのです。

そしてきょうこそどもらがみんないっしょにたびにたつのです。 おかあさんはそれをあんまりかなしんでおうぎがた黄金きんかみをきのうまでにみんなとしてしまいました。

「ね、あたしどんなとこへいくのかしら。」 ひとりのいちょうのおんなそらあげてつぶやくようにいいました。

「あたしだってわからないわ、どこへもいきたくないわね。」 もひとりがいいました。

「あたしどんなめにあってもいいから、おっかさんとこにいたいわ。」

「だっていけないんですって。 かぜ毎日まいにちそういったわ。」

「いやだわね。」

「そしてあたしたちもみんなばらばらにわかれてしまうんでしょう。」

「ええ、そうよ。 もうあたしなんにもいらないわ。」

「あたしもよ。

序章-章なし
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いちょうの実 - 情報

いちょうの実

いちょうのみ

文字数 2,629文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 注文の多い料理店――宮沢賢治童話集 1

青空情報


底本:「注文の多い料理店――宮沢賢治童話集 1」青い鳥文庫、講談社
   1985(昭和60)年1月24日第1刷発行
   2004(平成16)年6月7日第52刷
入力:劉斗
校正:小林繁雄
2011年3月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:いちょうの実

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