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妖怪学

著者:井上円了

ようかいがく - いのうえ えんりょう

文字数:58,935 底本発行年:1891
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著者井上 円了
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序言

妖怪学は応用心理学の一部分として講述するものにして、これに「学」の字を付するも、決して一科完成せる学を義とするにあらず。 ただ、妖怪の事実を収集して、これに心理学上の説明を与えんことを試むるに過ぎず。 すなわち、心理学の学説を実際に応用して事実を説明し、もって心理考究の一助となすのみ。 かくのごとく、妖怪の事実を考究説明して他日に至れば、あるいは一科独立の学となるも知るべからず。 ゆえに、これを講述するは、哲学ならびに心理学研究に志ある者に、裨益ひえきするところあるは明らかなり。 これ、余が妖怪学の講義を始むるゆえんなり。

しかりしこうして、余、いまだ妖怪の事実を究め尽くしたるにあらず、今日なお事実捜索中なれば、各事実について、いちいち説明を与うることあたわず。 ただ、余が従来研究中、二、三の事実につき説明を与えしもの、あるいは雑誌、あるいは新聞、あるいは諸小冊子中に参見せるあり。 今これを集録し、その部類を分かち、さらにその後研究したる事実を増補し、左に「妖怪学講義」として掲載することとなれり。 読者、よろしく心理学講義の一部分とみなすべし。

[#改ページ]

第一章 総論

今、妖怪学を講述するに当たり、まずその意義を略解せざるべからず。 余のいわゆる妖怪とは、いたって広き意味を有し、一切、妖怪不思議に属するものを総称するなり。 およそ宇宙間の諸象の中に洋の東西を問わば、世の古今を論ぜず、普通の道理にて説明すべからず、一般の規則にて解釈すべからざるものあり。 これを妖怪といい、あるいは不思議と称す。 その種類、民間に存するものいくたあるを知らずといえども、これを大別すれば左の二種となる。

┌物理的妖怪

妖怪┤

└心理的妖怪

物理的妖怪とは、有形的物質の変化作用より生ずるものにして、心理的妖怪とは、無形的精神の変化作用より生ずるものをいう。

今その一例を挙ぐれば、狐火きつねび、流星、不知火しらぬい蜃気楼しんきろう、および京都下加茂社内へ移植する木はみなひいらぎに変じ、尾州熱田に移養する鶏はみな牡鶏に化すというがごときは、物理的妖怪なり。 これに反して、奇夢、神感、狐憑きつねつき、予言のごときは、心理的妖怪なり。 もし、物理的妖怪の種類についてこれを分かてば、左の数種となるべし。

┌物理学的妖怪(すなわち物理学の説明を要するもの)

│化学的妖怪(すなわち化学の説明を要するもの)

│天文学的妖怪(彗星すいせい、流星のごとき天文に属するもの)

物理的妖怪┤

│地質学的妖怪(化石、結晶石のごとき地質に属するもの)

│動物学的妖怪(熱田の鶏の類)

└植物学的妖怪(下加茂の柊の類)

その他、人身の構造、機能上に関する妖怪は生理学に属する等の類、なお種々あるべし。 つぎに、心理的妖怪にも、その種類はなはだ多し。 これを分類するに、事実の上に考うる法と、これを説明する学科の上に考うる法との二様あるべし。

まず、事実上の分類によるに、左の三種となるべし。

第一種、すなわち外界に現ずるもの

幽霊、狐狸こり天狗てんぐ、鬼神、その他諸怪物

第二種、すなわち他人の媒介によりて行うもの

巫覡ふげき、神降ろし、人相、墨色すみいろ九星きゅうせい、方位、卜筮ぼくぜい祈祷きとう、察心、催眠、その他諸幻術

序言

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妖怪学 - 情報

青空情報


底本:「井上円了 妖怪学全集 第6巻」柏書房
   2001(平成13)年6月5日第1刷発行
底本の親本:「哲学館講義録 第五学年度第四、九、一九―二〇、二八、三一―三二、三四、三六号」
   1891(明治24)年12月25日、1892(明治25)年1月25日、5月5日、15日、8月5日、9月5日、15日、10月5日、25日
※〔〕内の編集者による注記は省略しました。
※複数行にかかる中括弧には、けい線素片をあてました。
入力:門田裕志
校正:成宮佐知子
2013年1月30日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:妖怪学

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