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桜さく島 見知らぬ世界

著者:竹久夢二

さくらさくしま - たけひさ ゆめじ

文字数:3,407 底本発行年:1912
著者リスト:
著者竹久 夢二
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みち

あを野原のはらのなかを、しろみちがながく/\つヾいた。

はヽともあねとも乳母うばとも、いまはおぼえもない。

おぶさつたそのをんなくので、わたしもさそはれてわけはしらずに、ほろ/\いてゐた。

をんなかたほヽをよせると、キモノの花模様はなもやうなみだのなかにいたりつぼんだりした、しろ花片はなびら芝居しばゐゆきのやうにあほそらへちら/\とひかつてはえしました。

黄楊つげのさしぐしがおちたのかとおもつたら、それは三ヶ月みかづきだつた。

黒髪くろかみのかげの根付ねづけたまは、そらへとんでいつてはあをひかつた。

またあかかんざしのふさは、ゆら/\とゆれるたんびに草原くさはらへおちては狐扇きつねあふぎはなけた。

少年せうねん不可思議ふかしぎゆめは、しろみちをはてしもなく辿たどつた。

[#改ページ]

花道はなみちのうへにかざしたつくりざくらあひだから、なみだぐむだカンテラがかずしれずかヾやいてゐた。 はやしがすむのをきっかけに、あのからひヾいてくるかとおもはれるやうなわびしい釣鐘つりがねがきこえる。

きん小鳥ことりのやうないたいけな姫君ひめぎみは、百日鬘ひやくにちかつら山賊さんぞくがふりかざしたやいばしたをあはせて、えいるこえにこの暇乞いとまごひをするのであつた。

     ぶつ

きらりとひか金属きんぞくのもとに、黒髪くろかみうつくしい襟足えりあしががっくりとまへにうちのめつた。 血汐ちしほのしたヽる生首なまくびをひっさげた山賊さんぞくは、くろくちをゆがめてから/\からと打笑うちわらつた。

あヽお姫様ひいさまられたのか。

それは少年せうねんのためには「最初さいしよ発見はつけん」であつた。

もう姫君ひめぎみんだのだ、んでしまへば、もうこのはなも、とりも、うたも、ふたヽびきくこともみることもできないのだ。

なみだ少年せうねんむねをこみあげこみあげをながれた。

死顔しにがほ」も「くろわらひも」なみだにとけて、カンテラのひかりのなかへぎらぎらときえていつた、舞台ぶたい桟敷さじき金色こんじきなみのなかにたヾよふた。

そのとき黒装束くろせうぞく覆面ふくめんした怪物くわいぶつが澤村路之助丈えとめぬいたまくうらからあらはれいでヽあか毛布けつとをたれて、姫君ひめぎみ死骸しがいをば金泥きんでいふすま[#ルビの「ふすま」は底本では「うすま」]のうらへといていつてしまつた。

んだのではない、んだのではない、あれは芝居しばゐといふものだとはヽなみだをふいてくれた。

さうして少年せうねんのやぶれたこヽろはつくのはれたけれど、舞台ぶたいのうへで姫君ひめぎみのきられたといふことはわすれられない記臆きおくであつた。 また赤毛布あかけつとうらをば、んだ姫君ひめぎみあるいたのも、不可思儀ふかしぎ発見はつけんであつた。

[#改ページ]

傀儡師くわいらいし

…………大阪おほさかをたちのいても、わたしが姿すがた

    たてば、借行輿かりかごをおくり………………

口三味線くちさみせん浄瑠璃じやうるりには飛石とびいしづたひにちかづいてくるのを、すぐわたしどもはきヽつけました。 五十三つぎ絵双六ゑすごろくをなげだして、障子しやうじ細目ほそめにあけたあねたもとのしたからそつと外面とのもをみました。

四十ばかりのをとこでした、あたまには浅黄あさぎのヅキンをかぶり、には墨染すみぞめのキモノをつけ、あしもカウカケにつヽんでゐました、そのは、とほくにあをうみをおもはせるやうにかヾやいてゐました。 ばうのさきには、よろいをきたサムライや、あか振袖ふりそでをきたオイランがだらりとくびをたれてゐました。

をとこ自分じぶんのかたる浄瑠璃じやうるりに、さもじやうがうつったやうな身振みぶりをして人形にんぎやうをつかつてゐました。

あかしかけをきた人形にんぎやうは、しろ手拭てぬぐひのしたにくろひとみをみひらいて、とほくきたたびをおもひやるやうにかほをふりあげました。

…………奈良なら旅籠はたご三輪みわ茶屋ちやや…………

    五、三をあかし…………

ゆびおりかぞえ

…………二十日はつかあまりに四十りやう、つかひはたし

みち

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桜さく島 - 情報

桜さく島 見知らぬ世界

さくらさくしま みしらぬせかい

文字数 3,407文字

著者リスト:
著者竹久 夢二

底本 桜さく島 見知らぬ世界

青空情報


底本:「桜さく島 見知らぬ世界」洛陽堂
   1912(明治45)年4月24日発行
※近代デジタルライブラリー(http://kindai.ndl.go.jp/)で公開されている当該書籍画像に基づいて、作業しました。
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記を新字にあらためました。
※文中の「…」は底本では1文字あたり4点ないしは5点の点線ですが、文字の幅に合わせた「…」で代用しました。
※歴史的仮名遣いから外れたものも、底本通り入力しました。
※促音「っ」の小書きの混在は底本のままとしました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:土屋隆
校正:田中敬三
2005年8月22日作成
2010年11月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:桜さく島

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