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よだかの星

著者:宮沢賢治

よだかのほし - みやざわ けんじ

文字数:5,159 底本発行年:1979
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著者宮沢 賢治
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序章-章なし

よだかは、実にみにくい鳥です。

顔は、ところどころ、味噌みそをつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。

足は、まるでよぼよぼで、一間いっけんとも歩けません。

ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合ぐあいでした。

たとえば、ひばりも、あまり美しい鳥ではありませんが、よだかよりは、ずっと上だと思っていましたので、夕方など、よだかにあうと、さもさもいやそうに、しんねりと目をつぶりながら、首をそっへ向けるのでした。 もっとちいさなおしゃべりの鳥などは、いつでもよだかのまっこうから悪口をしました。

「ヘン。 また出て来たね。 まあ、あのざまをごらん。 ほんとうに、鳥の仲間のつらよごしだよ。」

「ね、まあ、あのくちのおおきいことさ。 きっと、かえるの親類か何かなんだよ。」

こんな調子です。 おお、よだかでないただのたかならば、こんななまはんかのちいさい鳥は、もう名前を聞いただけでも、ぶるぶるふるえて、顔色を変えて、からだをちぢめて、木の葉のかげにでもかくれたでしょう。 ところが夜だかは、ほんとうはたかの兄弟でも親類でもありませんでした。 かえって、よだかは、あの美しいかわせみや、鳥の中の宝石のようなはちすずめの兄さんでした。 蜂すずめは花のみつをたべ、かわせみはお魚を食べ、夜だかは羽虫をとってたべるのでした。 それによだかには、するどいつめもするどいくちばしもありませんでしたから、どんなに弱い鳥でも、よだかをこわがるはずはなかったのです。

それなら、たかという名のついたことは不思議なようですが、これは、一つはよだかのはねが無暗むやみに強くて、風を切ってけるときなどは、まるで鷹のように見えたことと、も一つはなきごえがするどくて、やはりどこか鷹に似ていたためです。 もちろん、鷹は、これをひじょうに気にかけて、いやがっていました。 それですから、よだかの顔さえ見ると、かたをいからせて、早く名前をあらためろ、名前をあらためろと、いうのでした。

ある夕方、とうとう、鷹がよだかのうちへやって参りました。

「おい。 居るかい。 まだお前は名前をかえないのか。 ずいぶんお前もはじ知らずだな。 お前とおれでは、よっぽど人格がちがうんだよ。 たとえばおれは、青いそらをどこまででも飛んで行く。 おまえは、くもってうすぐらい日か、夜でなくちゃ、出て来ない。 それから、おれのくちばしやつめを見ろ。 そして、よくお前のとくらべて見るがいい。」

「鷹さん。 それはあんまり無理です。 私の名前は私が勝手につけたのではありません。 神さまから下さったのです。」

「いいや。 おれの名なら、神さまからもらったのだとってもよかろうが、お前のは、云わば、おれと夜と、両方から借りてあるんだ。 さあ返せ。」

「鷹さん。

序章-章なし
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よだかの星 - 情報

よだかの星

よだかのほし

文字数 5,159文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 新編 銀河鉄道の夜

親本 新修宮沢賢治全集 第八巻

青空情報


底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
   1989(平成元)年6月15日第1刷発行
   1991(平成3)年3月10日4刷
底本の親本:「新修宮沢賢治全集 第八巻」筑摩書房
   1979(昭和54)年5月
入力:佐々木美香
校正:野口英司
1998年8月20日公開
2025年2月2日修正
青空文庫作成ファイル:
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