やまなし
著者:宮沢賢治
やまなし - みやざわ けんじ
文字数:2,583 底本発行年:1989
小さな谷川の底を写した二枚の青い
一、五月
二
『クラムボンはわらったよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
『クラムボンは
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
上の方や横の方は、青くくらく
『クラムボンはわらっていたよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
『それならなぜクラムボンはわらったの。』
『知らない。』
つぶつぶ泡が流れて行きます。
蟹の子供らもぽっぽっぽっとつづけて五六
つうと銀のいろの腹をひるがえして、一疋の魚が頭の上を過ぎて行きました。
『クラムボンは死んだよ。』
『クラムボンは殺されたよ。』
『クラムボンは死んでしまったよ………。』
『殺されたよ。』
『それならなぜ殺された。』
兄さんの蟹は、その右側の四本の
『わからない。』
魚がまたツウと
『クラムボンはわらったよ。』
『わらった。』
にわかにパッと明るくなり、日光の
波から来る光の
魚がこんどはそこら中の
『お魚はなぜああ行ったり来たりするの。』
弟の蟹がまぶしそうに
『何か悪いことをしてるんだよとってるんだよ。』
『とってるの。』
『うん。』
そのお魚がまた