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雪の女王 七つのお話でできているおとぎ物語

原題:SNEDRONNINGEN

著者:ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen

ゆきのじょおう

文字数:39,196 底本発行年:1955
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序章-章なし

第一のお話

鏡とそのかけらのこと

挿絵

さあ、きいていらっしゃい。 はじめますよ。 このお話をおしまいまできくと、だんだんなにかがはっきりしてきて、つまり、それがわるい魔法使まほうつかいのお話であったことがわかるのです。 この魔法使というのは、なかまでもいちばんいけないやつで、それこそまがいなしの「悪魔あくま」でした。

さて、ある日のこと、この悪魔は、たいそうなごきげんでした。 というわけは、それは、鏡をいちめん作りあげたからでしたが、その鏡というのが、どんなけっこうなうつくしいものでも、それにうつると、ほとんどないもどうぜんに、ちぢこまってしまうかわり、くだらない、みっともないようすのものにかぎって、よけいはっきりと、いかにもにくにくしくうつるという、ふしぎなせいしつをもったものでした。 どんなうつくしいけしきも、この鏡にうつすと、くたらしたほうれんそうのように見え、どんなにりっぱなひとたちも、いやなかっこうになるか、どうたいのない、あたまだけで、さかだちするかしました。 顔は見ちがえるほどゆがんでしまい、たった、ひとつぼっちのそばかすでも、鼻や口いっぱいに大きくひろがって、うつりました。

「こりゃおもしろいな。」 と、その悪魔はいいました。 ここに、たれかが、やさしい、つつましい心をおこしますと、それが鏡には、しかめっつらにうつるので、この魔法使の悪魔は、じぶんながら、こいつはうまい発明はつめいだわいと、ついわらいださずには、いられませんでした。

この悪魔は、魔法学校をひらいていましたが、そこにかよっている魔生徒どもは、こんどふしぎなものがあらわれたと、ほうぼうふれまわりました。

さて、この鏡ができたので、はじめて世界や人間のほんとうのすがたがわかるのだと、このれんじゅうはふいちょうしてあるきました。 で、ほうぼうへその鏡をもちまわったものですから、とうとうおしまいには、どこの国でも、どの人でも、その鏡にめいめいの、ゆがんだすがたをみないものは、なくなってしまいました。 こうなると、図にのった悪魔のでしどもは、天までものぼっていって、天使てんしたちや神さままで、わらいぐさにしようとおもいました。 ところで、高く高くのぼって行けば、行くほど、その鏡はよけいひどく、しかめっつらをするので、さすがの悪魔も、おかしくて、もっていられなくなりました。 でもかまわず、高く高くとのぼっていって、もう神さまや天使のお住居すまいに近くなりました。 すると、鏡はあいかわらず、しかめっつらしながら、はげしくぶるぶるふるえだしたものですから、ついに悪魔どもの手から、地の上へおちて、何千万、何億万、というのではたりない、たいへんな数に、こまかくくだけて、とんでしまいました。 ところが、これがため、よけい下界げかいのわざわいになったというわけは、鏡のかけらは、せいぜい砂つぶくらいの大きさしかないのが、世界じゅうにとびちってしまったからで、これが人の目にはいると、そのままそこにこびりついてしまいました。 すると、その人たちは、なんでも物をまちがってみたり、ものごとのわるいほうだけをみるようになりました。 それは、そのかけらが、どんなちいさなものでも、鏡がもっていたふしぎな力を、そのまま、まだのこしてもっていたからです。 なかにはまた、人のしんぞうにはいったものがあって、そのしんぞうを、氷のかけらのように、つめたいものにしてしまいました。 そのうちいくまいか大きなかけらもあって、窓ガラスに使われるほどでしたが、そんな窓ガラスのうちから、お友だちをのぞいてみようとしても、まるでだめでした。 ほかのかけらで、めがねに用いられたものもありましたが、このめがねをかけて、物を正しく、まちがいのないように見ようとすると、とんださわぎがおこりました。 悪魔はこんなことを、たいへんおもしろがって、おなかをゆすぶって、くすぐったがって、わらいました。 ところで、ほかにもまだ、こまかいかけらは、空のなかにただよっていました。 さあ、これからがお話なのですよ。

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第二のお話

男の子と女の子

挿絵

たくさんの家がたてこんで、おおぜい人がすんでいる大きな町では、たれでも、庭にするだけの、あき地をもつわけにはいきませんでした。 ですから、たいてい、植木うえきばちの花をみて、まんぞくしなければなりませんでした。

そういう町に、ふたりのまずしいこどもがすんでいて、植木ばちよりもいくらか大きな花ぞのをもっていました。 そのふたりのこどもは、にいさんでも妹でもありませんでしたが、まるでほんとうのきょうだいのように、仲よくしていました。 そのこどもたちの両親は、おむこうどうしで、その住んでいる屋根うらべやは、二軒の家の屋根と屋根とがくっついた所に、むかいあっていました。

序章-章なし
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雪の女王 - 情報

雪の女王 七つのお話でできているおとぎ物語

ゆきのじょおう ななつのおはなしでできているおとぎものがたり

文字数 39,196文字

著者リスト:

底本 新訳アンデルセン童話集 第二巻

青空情報


底本:「新訳アンデルセン童話集 第二巻」同和春秋社
   1955(昭和30)年7月15日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本中、*で示された語句の訳註は、当該語句のあるページの下部に挿入されていますが、このファイルでは当該語句のある段落のあとに、5字下げで挿入しました。
※見出しの字下げは底本通りとしました。
入力:大久保ゆう
校正:鈴木厚司
2005年11月22日作成
2014年3月27日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:雪の女王

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