人魚のひいさま
原題:DEN LILLE HAVFRUE
著者:ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen
にんぎょのひいさま
文字数:29,066 底本発行年:1955
はるか、沖合へでてみますと、海の水は、およそうつくしいやぐるまぎくの花びらのように青くて、あくまですきとおったガラスのように澄みきっています。
でも、そこは、ふかいのなんのといって、どんなにながく
ところで、海の底なんて、ただ、からからな砂地があるだけだろうと、そうきめてしまってはいけません。
どうして、そこには、世にもめずらしい木や草がたくさんしげっていて、そのじくや葉のしなやかなことといったら、ほんのかすかに水がゆらいだのにも、いっしょにゆれて、まるで生きものがうごいているようです。
ちいさいのも、おおきいのも、いろんなおさかなが、その枝と枝とのなかをつうい、つういとくぐりぬけて行くところは、地の上で、鳥たちが、空をとびまわるのとかわりはありません。
この海の底をずっと底まで行ったところに、海の人魚の王さまが御殿をかまえています。
その御殿の壁は、さんごでできていて、ほそながく、さきのとがった窓は、すきとおったこはくの窓でした。
屋根は貝がらでふけていて、海の水がさしひきするにつれて、貝のふたは、ひとりでにあいたりしまったりします。
これはなかなかうつくしいみものでした。
なぜといって、一枚一枚の貝がらには、それひとつでも女王さまのかんむりのりっぱなそうしょくになるような、大きな
ところで、この御殿のあるじの王さまは、もうなが年のやもめぐらしで、そのかわり、年とったおかあさまが、いっさい、うちのことを引きうけておいでになりました。 このおかあさまは、りこうな方でしたけれど、いちだんたかい身分をほこりたさに、しっぽにつける飾りのかきをごじぶんだけは十二もつけて、そのほかはどんな家柄のものでも、六つから上つけることをおゆるしになりませんでした。 ――そんなことをべつにすれば、たんとほめられてよい方でした。 とりわけ、お孫さんにあたるひいさまたちのおせわをよくなさいました。 それはみんなで六人、そろってきれいなひいさんたちでしたが、なかでもいちばん下のひいさまが、たれよりもきりょうよしで、はだはばらの花びらのようにすきとおって、きめがこまかく、目はふかいふかい海のようにまっ青でした。 ただほかのひいさまたちとおなじように、足というものがなくて、そこがおさかなの尾になっていました。
ながいまる一日、ひいさまたちは、海の底の御殿の、大広間であそびました。 そとの壁からは、生きた花が咲きだしていました。 大きなこはくの窓をあけると、おさかながつういとはいって来ます。 それはわたしたちが窓をあけると、つばめがとび込んでくるのに似ています。 ただ、おさかなは、すぐと、ひいさまたちの所まで泳いで行って、その手からえさをとってたべて、なでいたわってもらいました。
御殿のそとには、大きな花園があって、はでにまっ赤な木や、くらいあい色の木がしげっていました。
その木の実は金のようにかがやいて、花はほのおのようにもえながら、しじゅうじくや葉をゆらゆらさせていました。
海の底は、地面からしてもうこまかい砂でしたが、それは
ひいさまたちは、めいめい、花園のなかに、ちいさい
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人魚のひいさま - 情報
青空情報
底本:「新訳アンデルセン童話集第一巻」同和春秋社
1955(昭和30)年7月20日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本中、*で示された語句の訳註は、当該語句のあるページの下部に挿入されていますが、このファイルでは当該語句のある段落のあとに、5字下げで挿入しました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2005年8月18日作成
2012年5月15日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:人魚のひいさま