葉
著者:太宰治
は - だざい おさむ
文字数:9,485 底本発行年:1947
        
二つわれにあり
ヴェルレエヌ
死のうと思っていた。
ことしの正月、よそから着物を一反もらった。
お年玉としてである。
着物の布地は麻であった。
鼠色のこまかい
ノラもまた考えた。 廊下へ出てうしろの扉をばたんとしめたときに考えた。 帰ろうかしら。
私がわるいことをしないで帰ったら、妻は笑顔をもって迎えた。
その日その日を引きずられて暮しているだけであった。
下宿屋で、たった独りして酒を飲み、独りで酔い、そうしてこそこそ
新宿の歩道の上で、こぶしほどの
子供に欺かれたのが淋しいのではない。
そんな天変地異をも平気で受け入れ得た彼自身の
そんなら自分は、一生涯こんな憂鬱と戦い、そうして死んで行くということに成るんだな、と思えばおのが身がいじらしくもあった。
青い稲田が一時にぽっと
電車から降りるとき兄は笑うた。
「
そうして竜の小さな肩を扇子でポンと叩いた。 夕闇のなかでその扇子が恐ろしいほど白っぽかった。 竜は頬のあからむほど嬉しくなった。