般若心経講義
著者:高神覚昇
はんにゃしんぎょうこうぎ - たかがみ かくしょう
文字数:104,715 底本発行年:1952
序
いったい仏教の根本思想は何であるかということを、最も簡明に説くことは、なかなかむずかしいことではあるが、これを一言にしていえば、「
何人にもわかっているようで、しかも誰にもほんとうにわかっていないのが空である。 けだし、その空をば、いろいろの角度から、いろいろの立場から、いいあらわしているのが、仏教というおしえである。
ところで、その空を『心経』はどう説明しているかというに、「
次に空をほんとうに認識するについて、もう一つたいせつなことがある。 それは「因縁」ということである。 『心経』には因縁について一言も説いてはいないが、因縁を十分に理解しないと、どうしても空はわからないのであって、端的にいえば、空と因縁とは、表裏一体の関係にあるのである。 申すまでもなく因縁とは、「因縁生起」ということで、世間のこといっさいみなことごとく因縁の和合によって生じ起るということである。 もとよりこのことは、説明を要しない自明の理であるにもかかわらず、われわれはこの自明の理にたいして、平素あまりにも無関心でいるのである。 すなわち「因」より直接に果が生ずるがごとく考えて、因縁和合の上の結果であることに気づかないのである。 しかもこれがあらゆる「迷い」の根源となっているのである。 すなわち凡夫の迷いとは、つまり因縁の理を如実にさとらないところにある。 別言すれば、因縁の真理を知らざることが「迷い」であり、因縁の道理を明らめることが「悟り」であるといっていい。
おもうに今日、一部のめざめたる人を除き、国民大衆のほとんどすべては、いまだに虚脱と混迷の間をさまようて、あらゆる方面において、ほんとうに再出発をしていない。 色即是空と見直して、空即是色と出直していない。 所詮、新しい日本の建設にあたって、最もたいせつなことは、「空」観の認識と、その実践だと私は思う。 このたび拙著『般若心経講義』を世に贈るゆえんも、まさしくここにあるのである。 この書が、新日本文化の建設について、なんらか貢献するところあらば、著者としてはこの上もないよろこびである。
昭和二十二年春
東京 鷺宮 無窓塾
高神覚昇
[#改丁]
[#ページの左右中央]
第一講 真理 の智慧
[#改ページ]
[#ページの左右中央]
般若波羅蜜多心経
(一切智に帰命し奉る)
[#改ページ]
心経の名前
ここに『
序
ブックマーク系
サイトメニュー
シェア・ブックマーク
般若心経講義 - 情報
青空情報
底本:「般若心経講義」角川文庫、角川書店
1952(昭和27)年9月30日初版発行
1967(昭和42)年5月30日改41版発行
1973(昭和48)年3月30日改版12版発行
※校正には「角川文庫」(1979(昭和54)年7月30日改版22版)を使用しました。
※底本巻末の著者による「注」、「仏説摩訶般若波羅蜜多心経」、「同 和訳」は省略しました。
入力:多田克也
校正:大野晋、Juki
2006年9月15日作成
2016年5月10日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:般若心経講義